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2011.03.22

『シャギーロックヘヴン』

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シャギーロックヘヴン』(十文字青/幻狼ファンタジアノベルス)

薔薇のマリアと同一世界観となる今作ですが、作品の雰囲気は随分違います。薔薇のマリアはなんのかんのと言ってもキャラクター小説的な要素が強い作品ですが、今回の主役は無秩序都市、エルデンそのもの。すなわち、馳星周に代表される暗黒街小説に当たります。一切の法も秩序も規定されてないゆえに、そこを支配するのは金と欲望、そして力。人間を容赦なく食いつぶしていくエルデンと言う都市で生きる日々を描きます。そこにあるのは、弱く、卑怯で、醜い、自分を屑と罵り、人生を諦め、それでも求めることをやめられない人々。自分の”今”に対する絶望感と向き合いながら、それでも生きていく人々の姿です。

ここに登場する人たちは、お世辞にもカッコいいとは言えません。暗い影を背負った青年もいまでは40手前の中年となり、それでも女漁りがやめられない。かつての美少年も今では30を越えており、昔のようにはいられない。口先だけで渡ってきた男は、足を踏み外せばいつでも闇の中に滑り落ちるかもしれない。彼らはただひたすらに”昨日と同じ今日”を積み上げてきただけで、”明日”に向かうことが無く、ただ停滞し、腐り続けているのです。それは本当にみっともなく、希望もない。それでも死ぬことは嫌で、しかし先が見えない。

そんな彼らを軽侮することは容易いことです。彼らの現在は、さまざまな過去が影響しているにせよ、すべて彼ら自身で選んだこと。その結果として現在あるのであれば、すべては彼ら自身が背負うべき。であれば、彼らの現在は彼ら自身の自業自得と言えます。それは確かです。否定は出来ません。しかし、それでも彼らは生きてきました。自分が無様であることなど承知して。明日の事など考える余裕もなく。ただ細い糸の上で渡るように必死に。がむしゃらに。あるいは懸命に。そのようにして生きてきたこともまた間違いのないことです。

彼らにとって、エルデンは自らのようなはみ出し者を受け入れてくれる最後の地でした。同時に、彼らから容赦なくすべてを奪っていく恐るべき略奪者でもありました。彼らは、ひたすらに”今日”を生きるために全力を注がなくては、すべてを奪われてしまうということを知っており、”明日”などを求めませんでした。今日を求めることをやめれば、その瞬間に終わりだということを良く知っていたからです。明日を求めなくては希望も生まれないということを知りながらも、生きるためには明日を求めることが出来ない。それが彼らの生きる世界でした。

そのような彼らは、確かに人間の屑です。生きる価値も目的もない、掃き溜めに生きる者たちです。しかし、それでも彼らはひたすらに抗い続けてきました。己の価値を失っていきながら、それでも生きてきました。そう、彼らは懸命に戦っていたのです。己と言うすべてを賭けて。醜く這いずり回りながら。その行為は確かに愚かで醜いものですが、それを否定することは賢いことでしょうか?自分にはそうは思えません。もし、それを否定することが出来るものは、おそらく彼らと同様に戦い続けてきたものだけでしょう。

彼らは生きるためには明日を夢みてはいけないということを良く分かっていました。明日を夢見た瞬間、現在の重みに耐えられなくなる。希望を抱いてはいけないということも理解していました。希望を抱いた時から、希望に裏切られることに怯えなくてはならなくなる。一瞬を、刹那を生きることが、彼らに出来る唯一の手段でした。しかし、あるとき、彼らは明日を思ってしまいます。希望を求めてしまいます。それは愚かなことでした。本当に、本当に愚かなことでした。彼らが歩いているのは細い一本の糸の上であり、そこから外に踏み出した時は、暗闇に落ちるしかない。それは良く分かっていたはずなのに。

けれども、彼らは、それでも明日を思いました。希望を抱きました。ただ刹那を生きるのではなく、その先を夢見ました。毎日を過ごした、クソッタレな仲間のために。そして自分自身のために。愚かだと理解していても、それでも彼らは抗いました。今日を生きる戦いから、未来を掴むための戦いを始めました。

しかし、彼らが戦う先は闇そのものです。無秩序都市エルデン。そこには底なし沼のように、深く深く闇があります。それは個人が立ち向かえるものではなく、立ち向かってはいけないものです。そして、彼ら自身の過去。それは彼ら自身の為した行為が積み重なって、く降りかかってきます。それは彼らがもっとも恐れるものであり、決して逃れえぬものです。戦うには、あまりにも大きなものでした。

彼らには勝利の可能性はあるのでしょうか?結論としては皆無です。今日を勝てたとしても明日負けるかもしれない。明日は勝てたとしても、明後日は負けるかもしれない。この戦いは、いつか敗北する時に向かう戦いです。必ず敗北することが定められた戦いです。それでは彼らは不幸だったのか?客観的に見て、彼らには何一つ残りませんでした。何も得る事が出来ず、何も為す事もありません。何かを生み出すことも出来ません。彼らには苦難しか与えられることはありませんでした。苦難以外の道を歩むことが出来ませんでした。

それでも、彼らは幸福ではなかったでしょうか?仲間のために行動したとき、苦難の時に仲間が助けてくれたとき、彼らは幸福ではなかったのではないでしょうか?過去も未来も現在も、彼らに優しくなかったけれども、そこには何かがあったのではないでしょうか?

それを決められるのは、彼らだけです。彼らだけが、クソッタレで、ムカつく、ヘドロのような世界に、天国を見出すことが出来る。それしか出来ない。

しかし、それだけは出来るはずなのです。

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コメント

感想読んだだけで生唾飲み込むってどんだけっすか。買っちまったよ。

どうでもいいですがリンク用の画像(ホラあの細長ーいやつ)ってないのでしょうか?ないならtwitter用の顔画像でも・・・(笑)

投稿: もじのくまさん | 2011.03.24 13:14

バナーの事でしょうか。残念ながらバナーはありません。絵が描けないのは勿論ですが、そもそもバナーが必要なほど有名なブログでもないですからね。

twitterの画像はゲームキャラの画像なので、引用されてもこのブログだと分からないので、オススメはしかねます。著作権的にも良くないでしょうし。

まあ、リンクを貼るのであれば、現時点では文字で貼っていただくしかないと思われます。

投稿: 吉兆 | 2011.03.24 21:33

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