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2011.02.02

『レイセン File2:アタックフォース』

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レイセン File2:アタックフォース』(林トモアキ/角川スニーカー文庫)

林先生にしてはものすごくまともな話でびっくりしました。いや、別に悪い意味で言っているわけじゃなくて、なんと言うかすごく地に足がついた・・・いや、奇を衒ってない・・・えーと、なんか違うな。つまり、あんまり気が狂ってないな、と(ひどい言い草だ)。

あらゆる超常的な能力を持った敵に対して、ハッタリと眼光だけで渡り合う川村ヒデオの活躍を堪能すると言うマスラオ時代に築いた基本ラインからまったく逸れていないと言う、ただそれだけの事に驚愕しています。いつもの林先生なら、このあたりから展開が斜め上に行くはず。最初に敷いた伏線や構成を”完璧に無視”して暴走を始めるのがいつもの事だったので、この、あたかも凪のような安心感のある展開に、不気味な印象さえ覚えてしまいました(本当にひどい言い草だ)。おかしい・・・こんな普通に楽しく普通に面白い作品を書く人ではなかったはずだが・・・。

と思ってしまうほどに、安定感のある作品でした。新しい登場人物が登場し、ヒデオたちの”敵”の存在も明確になりつつある。ただ、ミスマルカに登場する葉多恵さんが登場して、そのむちゃくちゃぶりを発揮するあたりは作者らしい、笑える中にも背筋がヒヤリをする描写があり、そのあたりはさすがだなあ。

基本、ギャグ小説だと物理的ダメージは過剰になりつつ死亡率は0に近づく(『人類は衰退しました』における妖精さん理論である)はずなのだが、林作品においては、”物理的ダメージは過剰になりつつ実は死ぬかもしれない可能性もある”と言うところがあって、例えば葉多恵さんが強いる修行はむちゃくちゃで、その描写はギャグにしか見えないのだけど、しかし、実は葉多恵さんは”人間的な情愛がない”と言う人物なのである。なので、彼女の課す修行は、たぶんマジで死ぬ可能性がある。少なくとも作者は、ギャグをギャグとして描くつもりはない。と言うよりも、”それまでギャグ描写だと思っていたらシリアスだった”と言うギャップを追求してきた作家なのですね。思えば『お・り・が・み』も『マスラヲ』も、どちらもギャグマンガ時空が発生しているのかと思って読んでいたら、実は全部が”マジ”であり”人の生死”がかかった本気の話だったということがわかったりしてびっくりしたものですなあ。レイセン(と言うかおりがみ)で言えば”ほむら鬼”なんか、豪快で気持ちの良いキャラクターなんだけど、その実は人間など虫けらにしか思っていない本物の鬼であるとか、ちょっとマジで恐いよね。付き合い方も間違えれば本当に我が身の破滅を招く。彼らにとっては冗談でも、人間にとってはそうではない、とかね。

今回の葉多恵さんなんかもその通りで、キャラクターとしては気さくでハイテンションなお姉さんと言うキャラクター以外の何者でもないくせに、人間を利用して殺すことなんてまったく良心の咎めもない本物の妖怪なわけです。ギャグっぽくヒデオや翔香と楽しげに掛け合いをしていて(しかもそれは嵐の前の静けさみたいな前座ではなく、事実今回のコメディパートのほとんどは葉多恵さんによるものになります)、その上でマジで殺そうとしてくる。たぶん、ヒデオたちが立ち回りを間違えれば本当に死んでいたと思うんですけど、その”ギャグとシリアスの境界が曖昧”であるところが林先生らしいところなんだろうな、と改めて思いました。なんちゅーか、林作品の登場人物たちは”常在戦場”をあまりにも体現しすぎているよね。自分の隣人が突然自分を殺しにかかったとしても、とりあえず捌いたあとにまた隣人を含めた日常に回帰するとか普通にやるんだ。なんだろうなこのシグルイどもは。

今回はあんまり話が動かなかったので、逆に林先生の殺伐としたキャラクター観に目がついたような気がします。

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コメント

林先生も今年でデビュー10周年なので、
実力が確たるものになってきたんですかね。
現在連載中のレイセンの完成度にはファンのあいだでも「何事だ・・・!」レベルの衝撃のようです。

投稿: もじのくまさん | 2011.02.04 13:30

巧拙の云々と言うよりも、レイセンは良い意味で”力が抜けている”作品だと思います。林先生は思いついた展開を力業で展開させる豪腕の持ち主ですが、時にそれは強引と思われがちになりますが、今回はあまり無理をしないで、展開をあるがままに流している感じです。

林先生的には「自分だってこのくらい書けるんだぜ?今までやらなかっただけでな」みたいな気がしますね。勝手な妄想ですが。

投稿: 吉兆 | 2011.02.04 19:08

え…そ、そんなイメージですか?
あぁでも「ふぅ、俺もやっとこっち側の住人になれたか…(;_;)」みたいなのは感じる事はできるかな?あとがき等の林先生のキャラはアレ虚勢だと思ってるんで。

投稿: もじのくまさん | 2011.02.04 23:16

いやーどうせレイセンも次かその次くらいには想定の斜め上ぐらいの方向に話しがぶっ飛ぶんじゃないかと疑っているんですが。その程度には林先生を信頼しています(信頼していないとも言う)。

投稿: 吉兆 | 2011.02.05 01:42

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