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2011.02.28

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない(7)』

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俺の妹がこんなに可愛いわけがない(7)』(伏見つかさ/電撃文庫)

今回の物語は「京介の主観の物語である」という点がクローズアップされています。京介の主観の物語であるとはどういうことかと言うと、すなわち「京介の気がつかないことは語られない」と言うことです。京介が気がつかなかったことは語られないし、明らかにはされない。つまり”信用の出来ない語り手”と言うことですね。物語で語られているのはあくまでも京介の主観であって、正解ではない。まあこのあたりは作者インタビューなどでも語られているのでそれほど目新しいところではありませんが、ここまで重要な扱いとなったのは初めてではないでしょうか。

”信用の出来ない語り手”であるというところの最大の重要な点は、「桐乃が京介の事が大好きである」と言うところを京介が気がついていないということでしょう。今回の物語は、この錯誤が積もりに積もって大きな騒動に繋がっていくことになります。桐乃が京介の事が大好きなのは、読者にとって見ればわりと自明ではあるんですが、京介は「桐乃に嫌われている」と言う思い込みがあるために、一向に気がつくことがありません。これが、7巻序盤における二人の会話のすれ違いに繋がります。そこで、京介は「桐乃が自分の事を男として好き」と言うことに対して普通に気持ち悪がります。まあこの態度自体は桐乃に対する”気安さ”の表れであって、たぶんそんなに深刻な反応ではないでしょうけどね。京介は、あくまでも冗談の一貫として捕らえていました。

しかし、桐乃は京介の態度に非常に傷つきました(京介の視点からは語られませんので、妄想かもしれませんけどね)。なぜならば、それは1巻で京介が自分の趣味を受け入れてくれたことと同じように受け入れてくれるものだという思い込みがあったからでしょう(実は内心では京介もドン引きしていたんですが、その頃はまだ兄妹間に隔意があったので表にはだしませんでした)。自分の”趣味”を受け入れてくれた京介なので、桐乃としてはそこを否定されてしまったことに対してショックを受けたということもあるでしょう。無論、自分が思うほどに京介は桐乃を想ってくれていないということもショックかもしれませんけどね。ただ、この会話によって生まれた認識の齟齬が、今回の物語全体を動かしていくことになります。京介に彼氏としてデートをしてもらったり(どうも狂言だったようです)と、桐乃さんとしてはガチで勝負をかけていたふしがありますが、その齟齬は埋められることはありませんでしたが。

そして、それによって登場する”桐乃の彼氏”。その存在によって、京介は己の中にある認識を修正する必要に迫られることになります。彼氏を連れてきた”妹”に対して、自分は一体どのような態度を取ればいいのか?そのことについて、自分は何を感じているのか?”信用のならない語り手”である京介は、実は自分の心さえも偽っていました。京介の主観の物語であると言うことは、京介の内面でさえ、京介が認識できなければ語られない。その内面を、ついに認識する必要が出てきたわけです。

そして、京介はついに自らの認識を覆しました。「自分にとって桐乃は大切な存在である」と言うことを認めたわけです。正直、ようやくかよ、と思わないでもないですが、まあ彼はツンデレなのでしょうがない。好きだけど好きと認めるのは抵抗があるタイプなんでしょう。まあそれはともかく、今までは「頼まれたからしょうがない」と言うスタンスであった京介は、妹に対して独占欲にも似た感情があることを認めました。この認識の転換は、おそらく京介と桐乃の関係を大きく揺るがすものになるでしょう。まだ、京介と桐乃の間にある”認識の齟齬”は解消はされてはいませんが、少なくとも大きな一歩となるはずです。

そして最後の黒猫の”告白”は、おそらく京介と桐乃の関係の変化とは無関係ではないでしょう。このあたりも京介の認識外になるので推測の域は出ませんが、黒猫は桐乃をライバルとして認識したのではないかと。今まではなんだかんだで兄妹であったのが、もしかしたらそれ以外の関係もありうるのではないか?京介の真意は分かりませんが(”信用の出来ない語り手”だからね)、黒猫がそれを意識したことは間違いないでしょう。それが思い切った行動に繋がったと考えるのはそれほどおかしくはないように思います。

それによって動いた関係については、最後の一文で明らかにされています。ここに来てフェイクはないと思うので、事実でしょう。問題は、その関係に辿りついたとき、京介と桐乃の認識はどのようになっているのかどうか?兄妹のままなのか?あるいはそれ以外の感情があるのか?それはちょっと現段階では不明ですね。大人しく次回を待ちたいと思います。

ただまあ、実は、自分は最後の一文そのものはそれほど重視はしません。なぜなら、たとえその関係が構築されたとしても、”妹は一生妹”ですからね。この関係は絶対に変わらない。その意味では、黒猫は最初から不利な状況にいるわけで、黒猫としては”告白”を受け入れてもらってようやく互角の立場ぐらいに思っているんじゃないでしょうか。桐乃と京介の関係の齟齬を解消してしまうと(まだ解消されると決まったわけではないけど)、今度は物語を駆動する力が失われてしまうので、そこでこの三角関係を持ってくる可能性もあるんじゃないかな、と思うわけです。想像してみて御覧なさいよ。素直な桐乃と積極的な黒猫が京介を挟んで牽制している姿を・・・。ラブコメ的にすごく美味しい展開じゃないですか。

まあ、ほとんどが妄想なので実現するかどうかは知らん。ただ、妄想しているのが楽しい作品であるわけで、ここまで楽しませてもらっていてありがたいなあ、と作者には感謝をしたいですね。

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コメント

>素直な桐乃と積極的な黒猫が京介を挟んで牽制している姿を・・・。ラブコメ的にすごく美味しい展開じゃないですか。
私的にはそもそも本妻の麻奈実がからんでない時点でむしろ萎えますね
京介のツンデレな内心描写ですでにデレに達しているのが分かりますし環境的にも既に公認状態ですし
桐乃はまだ麻奈実に嫉妬している描写があるからまだしも黒猫は桐乃の方ばっかり見て麻奈実の方を向いてない時点でただの当て馬でしかないから見てて哀れさしか感じられないので

正直そもそもラブコメじゃないこの作品で恋愛に比重が置かれても・・・という感じですかね
物語のヒロインである桐乃は実妹なので結ばれる分けがない(そんなシリアスな展開は誰も望まない)、
麻奈実という公認状態な相手がいる時点で他のキャラは当て馬になる
仮に麻奈実以外を選んだ場合これまでの2人の描写(既に田村家から家族認定されてるわ京介自身田村家の方が落ち着くと感じてるし)から冗談抜きで周囲から非難轟々になるでしょう。
もし彼女できた状態で田村家に行こうものならさらに非難を浴びるどころか読者からも嫌われかねないですし
やっぱりそんなガチ恋愛展開を期待される作品じゃないですしね。
黒猫や桐乃が京介のせいで傷つこうが失恋くらい当たり前だからしったこっちゃないし京介が悪いわけじゃないし~とか思えるなら楽しめるとは思いますが・・・

投稿: HT | 2011.03.10 08:11

HTさんは本当に麻奈美が好きで好きでしょうがないんですねー。最近の出番の少なさに対する作者への怨念が文章から滲み出ているようだ・・・。

まあ、自分の好きなキャラが活躍しないというのは読んでて腹立たしい気持ちは分からないでもないんですけど、だからと言って他のキャラを貶めるような発言はちょっと不毛のような気もします。

人によっては麻奈美よりも桐乃や黒猫が好きな人もいるでしょうし、そういう人に対して、今の展開は麻奈美が注目されていないから駄目だと言っても、感情的な罵りあいになりかねませんしね。とりあえず冷静にいきましょう。

それはさておくとして、おそらく恋愛編の最終巻になる次巻では、麻奈美がおそらく重要な役割を果たすように思います。恋愛感情の有無について(波風が立つので)置いときますが、少なくとも京介にとってもっとも心を許す異性であることま間違いないでしょうし、彼女云々は、麻奈美の”承認”を通さずにはすまないでしょう(これは麻奈美が”許す”という話ではありません)。彼女が味方なのかラスボスなのか、あるいは京介の女神になるのか、そのあたりに個人的に注目しています。

投稿: 吉兆 | 2011.03.10 22:16

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