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2011.02.22

『黒のストライカ(1)(2)』

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黒のストライカ(1)(2)』(十文字青/角川スニーカー文庫)

ぼんやりしているうちに2巻が発売されてしまった。1巻の感想をまだ書いていない。最近はこんなのばっかりだな。と言うわけでまとめて。

十文字青先生の新シリーズとなります。一読して十文字先生、随分とエンターテインメントの方向に舵を切ったな、と言う印象を受けました。キャラクターの描き方、要素の作り方、主人公の造型、行動の様式、それらすべてが実にライトノベル的なお約束を踏まえており、真面目に、と言うのも変ですが、ライトノベルを描こうとしているように思えました。主人公は強大な力を持つ闇の宗子(ストライカ)として、今では平凡な人間としての日常を送っている。しかし、一族最後の生き残りとなった自分に否応なしに介入しようとする諸勢力と、己の日常を守るために対峙していくことになります。彼の守る日常の中には、彼が誰よりも大切にしている少女がいて、彼は彼女には何も知らせないまま(知らせないことを誓い)、戦いに身を投じます。最初から特別な存在が、平凡を守るために戦う。物語としては非常にまっとうなところであると言えるでしょう(ただ、実は学園異能的にはそれほど多くはないタイプではあります。日常を逸脱するのではなく、守るために戦うと言うのは、オーソドックスからは少しひねってますね)。勿論、彼の周囲にはさまざまなヒロイン達が集まってきたりして、まあハーレムハーレムな展開になっていきます。正直言って、ここまでライトノベル的に描くとは思わなかったので、ちょっと意外に思いました。ただ、読んですぐ、ああ、中身はいつもの十文字先生だな、と思ったのではあるけれど。

そもそも十文字先生は、薔薇のマリアシリーズもそうですが、人間の弱さに対する十文字先生の信念(信仰の方がしっくりくるかな?)を描きこむ作家です。人間は弱く、脆く、一人でいることを恐れながら、繋がる事に怯えてもいる。正しくありたいと願っていても、それでもどうしようもなく己の弱さに溺れていく人々。そのもがきの中で、人は弱さと向き合い、時に逃げながら付き合っていく。人間の弱さに対して、非常に強く共感している人だと思います(妄想ですけどね)。

翻ってこの作品を省みると、特別に選ばれた強大な力を持つ存在であるはずの主人公が、あちこちでどうしようもない駄目人間なスメルを感じさせてくれます。実際にはバトルでは無敵であり、過去に宗子としての教育を受けているので、人の上に立つということも良く分かってはいる。一方で、日常の中では、好きな女の子に対して、まともに気持ちを伝えることも出来ないヘタレっぷりも見せ付けてくる。彼にとっては非日常バトルなどよりも、好きな女の子が何を考えているのかを知ることの方が重要だし、ひょんな事から助けた吸血鬼の少女のナイスバディにちょっとくらくらしたり、なんだか誘惑してくる後見人(監視役に近い)の少女にドギマギしたり、幼馴染のロリ少女の同衾したりしていることの方が重要なのです(・・・いや、重要だよねえ?オトコノコとしてはさ)。まあとにかく、そうした日常描写から見るに、そこには己にコンプレックスと焦燥を抱え、鈍感だったり、性欲に振り回されたりする、ほどよく駄目で一生懸命な、当たり前の少年であると言うことが垣間見えてくるのです。

そして、彼自身は、無敵で最強の黒のストライカであるよりも、平凡な日常で右往左往するヘボヘボな少年であることを望んでいるあたりに、不思議な感覚を受けますね。彼は、”強い自分”にはさして興味はなく、”弱い自分”こそが本当の自分であると思っている。駄目な自分こそが必要な自分だと思っている。周囲の思惑で否応なしにその想いに反した行動を取らされるのだけど、それらが済んだら、すぐにでも駄目な自分を取り戻そうとしている。そこには、”駄目な自分”と付き合っていくという作者のいつものテーマであって、つまり”強さ”とは”弱さ”を否定するのではなく、”弱さ”を守るためにこそあると言うことなのではないかと思うのです。

弱さは強さの対立項ではない。隣人なのだ。つまりはきっと、そういうことなんでしょうね。

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