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2011.01.17

『桐咲キセキのキセキ』

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桐咲キセキのキセキ』(ろくごまるに/GA文庫)

また変な小説を読んでしまったナア……と。なんか最近、この台詞が慣用句になりつつあるけど、ひょっとして自分は時代に取り残されているんじゃなかろうか、とわけもなく不安な気持ちになるな。オレが変な小説だと思って読んでいる本は、実は世間的には普通の小説なのでは……などとちょっと思ったりもしたけど、そのような事があっても世界はそのまま続いていくので私は元気です。

さて、ろくごまるに先生の久しぶり新シリーズと言うこといろいろの期待を持って読み始めたのですが、これがまた非常に理解が難しい作品で非常に頭を抱えました。まあ空前絶後の頃から変態的な(褒めています)作品作りをしていた方なので、ある意味原点回帰と言えなくもない。なんとなく、”読んでいるうちに何を読んでいたのか分からなくなる”と言うあたりが実に空前絶後を作った作者らしいな、と思います。封仙娘々シリーズにもその気はあったけれども、あっちはそれでもすごく分かりやすく作っていたんだねえ。

この作品は、一見したところ、桐咲一族の次期当主の座をめぐるバトルロイヤルの話が基本になっているようである。遊撃部長”K"がその候補の一人、桐咲キセキと出会ったことにより、物語は動き出していくという、それだけ考えればわりとシンプルは導入です。この遊撃部長”K”は桐咲キセキと出会ったことにより、バトルロイヤルと目されるメデュースと言う怪奇なゲームに挑んでいくということになる。

ただ、この話をシンプルではなくしているのが、このメデュースと言うゲームの形態そのものになります。シンプルではないと言うのはちょっと弱い言葉でしたね。はっきり言えば、”奇怪”で”意味不明”なゲームです。そもそも意味があるのかさえ不明の、そんなゲーム。なんと言うか、勝利条件が明確ではないんですね。誰に、何を、どうすれば勝利になるのか、まずそこからがはっきりしない。確かにメデュースごとにルールはあります。ただ、個々のメデュースが全体でどのように意味を持っているのかが分からない。例えば遊撃部長”K”が初めて参加したメデュースは、いわゆる普通のバトル展開っぽく見えるけど、”バトルに勝ったから勝利”なのかと言うと、どうも自分は疑わしい、とさえ思いました。どちらかと言うと、その裏になる”意図”を探ることの方が優先なのではないか…。勿論、現段階ではまだ情報不足ではありますが、どうも”勝利条件”と”目的”が明言されていないことの”気持ち悪さ”を強く感じます。その”気持ち悪さ”が、物語を読み進めていく上で、足場がぐらぐらとする不安定さを示しているように思いました。

そう、普通は物語が進めば少しずつ取っ掛かりが出てくるものだと思うんですが、この作品は、読み進めれば読み進めるほどに、この不安定さは強くなっていくことになります。そして、不安定が喚起するのは”不安”と”焦燥”です。この物語は、進めば進むほどに不安と焦燥に満ちていくことになります。決定的になるのが、最後のメデュースです。そのメデュースもまた、それまでと同様、知恵と駆け引きで当主としての器を見せるもののように始まっていきますが、文章のあちこちから「そんなゲームをやっている場合じゃない!」とでも言うような、なんと言いますかねえ、場違い感が漂っています。そんな”駆け引きゲーム”なんてメデュースとは何の関係も無いとでも言うような。明らかに他に重要なことがあるはずなのに、誰もそれに言及しない。それは言ってみれば”作中の人物は知っているのに読み手だけが知らされていない”と言う強烈な不安を覚えました。

しかし、同時に不安感は、物語が自分の手の内にはないことによる自由さにも通じます。先に見ようとしても、自分の知っている世界よりも、そこには”より大きな世界”がそこにはあるのではないか、と言う不安と同時に期待もまた感じます。それは組み上げても組み上げても正しい形が思いつかないパズルを見ているようで、その不安定で落ち着かない感覚そのものに、自分は物語としての意味があると思いもするのです。

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