« 買ったもの | トップページ | 『羽月莉音の帝国(5)』 »

2011.01.10

『くくるくる』

51tdqapf3gl__sl500_aa300_

くくるくる』(一肇/ガガガ文庫)

またケッタイな小説を読んでしまった。より正確な表現を使うのならば、混沌とした小説と言うべきか。正直、作者がどの方向を向いて書いているのか作者自身が見失っているような気さえするのだけど、困ったことに面白いのでいっそのことこのまま迷走していくのも面白いのかもしれない、などと思ったりするのであった。が、作品そのものには何の関係の無い話なのでさて置きます。

まず混沌とした印象の最たるものは、前半と後半で物語の色がまったく異なってしまっているというところでしょう。それも、ある一点から転調を起すタイプではなく、いつの間にか別の話になっている類いの変化であるけれども、一方で、そこに洗練された技巧のようなものはあまり感じられない。誤解をしないで貰いたいのだけど、それは下手と言うわけではなく、あまりにも”自然”過ぎるのだと言う事です。なんとなく余所見をしているうちに迷い込んでしまい、右往左往して、行きつ戻りつしているうちに別の道に出てしまったかのような自然さと言うべきか。ある時には物語に踏み込んだかと思えば、ある時は後退し、また退くのだろうと思わせて今度は踏み込んでいく。前半と後半の境目が曖昧に行ったり来たりしているところが、おそらくこの作品の独自色であろうと思われます。これがどういうことかと言うと、つまりこの物語には”表裏”と言うものが存在しないということですね。あ、存在しないという言い方は正しくないかな?「表と裏がひと続きに繋がっている」と言う方がしっくりくるような気もする。このあたり自分でもきちんと把握できてないので、もうちょっと書いてみます。

この物語は、とぼけた主人公のキャラクターから始まるユーモアに込められた少し不思議な出会いから始まり、主人公がヒロインと出会い奇妙な交流を行っていく過程が描かれています。この主人公が過剰に内相的なわりに本質的なところに踏み込まないながらも妙に押し出しが強いという奇妙なキャラクターで、突飛なキャラを持ちながら普通の少女であるヒロインとの関わりの風変わりなやりとりは、それだけで一つの作品としての強度を持っています。そして、強烈なキャラクターであるヒロインに主人公が振り回される形で当初は物語は動きますが、ところが、物語が進むにつれて、強烈なキャラクターであるヒロインではなく、茫漠とした主人公こそ中心に事態は進行していることが明らかになり、主人公の謎、世界の謎に焦点が当たることになる構成になっています。

ただ、平凡な世界の裏で、実は人知を超えた存在が動いているというのは、それほど斬新と言うわけでもないですよね?むしろライトノベルには普通の設定です。この作品の不思議なところは、その謎そのものが物語の”核心”と言うわけでなくて、そうした謎が明らかにされても、最終的にヒロインをめぐる物語に回帰してくる、否、そうした世界の真実そのものは物語には最初から最後までさして関与しないところにあるのです。おそらくこれはある少女に出会った主人公が彼女を救いたいと願う物語が前提としてあり、主人公自身の秘密や世界の謎などは、せいぜいが”家庭の事情”と同レベルの問題でしかないように思います。それは勿論、彼個人の問題としては重要な問題ではあるけれども、それが彼女の問題に影響があるかと言えば、まあさしてあるわけでもない。多少、関与していないわけでもないれど、それは”この世に関わりの無いことなど何も無い”と同レベルの関与でしかない。その意味で、”少年と少女の物語”と”世界の謎”は物事の表裏と言うわけでもなく、同時並行的に扱われている。

このあたりの感覚は非常に言葉にし難いところではあるんだけど、その、世界の謎の話と少女の話がまったく交差することなく、どちらの比重にも偏ることなく語られるところを興味深く感じました。それは「普通に暮らしていれば世界崩壊ぐらいありますよね?けどそれはそれとして彼女が気になるんだ」とでも言うような、日常と非日常に分けるのではなく、日常が既に非日常化しているという身体感覚を感じさせるところが、非常に”リアル”だと思うのです。

|

« 買ったもの | トップページ | 『羽月莉音の帝国(5)』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29313/50540318

この記事へのトラックバック一覧です: 『くくるくる』:

« 買ったもの | トップページ | 『羽月莉音の帝国(5)』 »