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2010.12.03

『シー・マスト・ダイ』

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シー・マスト・ダイ』(石川あまね/ガガガ文庫)

これは良い作品だとは思うけど、ライトノベルではぜんぜんありませんね。そもそもライトノベルの文法を完全に無視している。文章も硬質であるし、ラノベでありながらキャラクターを描写するよりも校舎の描写の方が力が入っているほどの無視っぷりです。ラノベ文法を無視することの良し悪しについては、まあライトノベルレーベルから出している事を考えれば、良いとは言えないのだろうが、一読者にとっては何一つ関係の無いことではあります。が、このあたりうるさい事を言う人もいるので、まあ、ねえ。などど口を濁すのでした。

冒頭は、とある中学校が突然テロリストに占拠されるところから始まるという非常にボンクラ魂が刺激される展開となります。突然に非日常に叩き込まれたクラスの中で、法の枷が外れたことによって欲望のままに行動するクラスメイトに対して、好きな女の子を守るために勇気を振り絞って対決する主人公の物語。ここまでは非常に正しいボンクライズムの発露であると言えるでしょう。物語は主人公とヒロインとライバル、そして”敵”の存在に絞られ、なんだかんだで知恵と機転と勇気によってヒーロー性を発揮し、暴力的で衝動的なライバルに対して渡り合う主人公は、世界の敵と疑われるヒロインを守るために戦いを始めていくことになります。いわゆる群像劇的な要素は薄いものの、バトルロワイヤル系の系譜をそれなりに受け継いでいるものと思われます。

しかし、そうしたボンクライズムは実は前振りに過ぎません。”主人公特権”にまつわる物語こそが本筋となり、一見、収束したかに見えた事件は、後半において新たなる展開を見せることになります。そこでは、主人公が必死に勇気を振り絞った行為に対する疑義が呈されることになり、ヒロインは一つの決断を迫られることになります。その意味では”主人公”と言うものに対する一つの議論であるとこの作品を捉えることも可能でしょう。ヒロインの決断そのものについては、自分はそれほど重視していません。あれは結論ではなく、一つの判断に過ぎないものと思われます。ただ、”ヒロイン”である彼女が下したもの、と考えるならば、なかなかに意味深くはありますが。

個人的な話をするのであれば、自分はあまり認めたくはありませんね。世界に承認された主人公の”意思”など、どれほどの意味があるというのか……。ご都合主義に対する皮肉、と言うのが一番素直な読み方だとは思いますが、単に皮肉であるのではなく、そのことによる幸福追求を行い続けた結果”何が生まれるのか”と言う点まで描いているところは評価するべきではないかと思うのでした。

 

・作品にはあまり関係のない雑記

この本を読んでいた頃、ついったーでのとある話題。これを読んで激怒したのを思い出したので書く。当時は激怒しすぎて何も書けなかったんだ。何を書いても罵倒になってしまいそうで。それはともかくとして、これ何に激怒したって、「お前らが”無駄”だと言っているのはお前らの了見での”無駄”だろうが!!」(当時の心境)ってところだったんです。無駄と簡単に言うけど、それが無駄だという根拠が良く分からなかったんですよね。描写が長い、物語に関係がないっつーのは、イコール無駄ではないと思うんですよ。”物語に関係がない描写を書いてはいけない”なんてのは、ただの決めつけに過ぎなくて、それが”正しい”わけではまったくないはず。勿論、個人で「この作品は描写が長くて読みにくい」と言うのはかまわないのだけど、それが”無駄”だと言うのは納得し難いなあ……。技法の正しさを、誰かに決め付けられたくはないなー。

少なくとも、あのあたりは自分にとっては映画的な俯瞰視点から物語が始まっているんだろうと感じました。最初に物語には関係のない外側から描写して行って、そこからカメラが狭いところ入っていく。それが効果的かどうかは別の議論になると思うけどね。だいたい”無駄な描写が無い”と言うのは”描写が貧しい”と言う事にも繋がる問題なのでそんな単純な話じゃないよ。たぶん、評者はラノベ以外をあまり読んでいないんだろうなー。ラノベ以外だったら作品の横幅を広げる目的で、物語に直接関係のない描写を増やすことなんてわりと普通にあるんだけど(まあただの水増しの場合もある)。

ガガガ文庫は、わりとラノベらしからぬ(と言うより、積極的にラノベの枠を拡大解釈する)作品を作るレーベルなので、このように言われるのはむしろ正しいことなのかもしれない。

どっちにしても、皆さんわりと保守的なんですのな……。

・さらに雑記

最後の方で”スニーカー文庫が育てた”と言う文脈で上げている作家全員が”続巻が出なくなっている”と言うあたり、もしかしたら高度な皮肉だったりしたのかしら?そのあたりに浅井先生が直接コメントしててびっくりしてしまいました。まあ、確かにご本人としては一言したくなるのかもしれない……。

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コメント

>・作品にはあまり関係のない雑記

半ばまでは同感ですが、それ以降は飛躍しすぎて自己矛盾に陥っている感があります。
確かに今後の展開に無関係な描写は無駄だ、という理屈には首を傾げたくなりますよね。作中にあるどんな描写も作品の世界観に多かれ少なかれ寄与していると思うので、「無駄」というのは評価として傲慢です。
ただ、「無駄」という言葉を確かに用いていますが、ただの言葉のアヤに過ぎないのではないでしょうか。この記事中に「(その描写が)効果的かどうかは別の議論」とありますが、多分にリンク先の評者は「効果的ではない」ということを「無駄」と表現したにすぎないと思います。技法の正しさを決めつけている、というのはちょっと飛躍しています。
勝手な推察ですがリンク先の評者は「ガガガの作品は小説として不自然に整備されていない箇所が目立つが、編集は機能しているのだろうか」という事を言いたいのではないでしょうか。その意見の正当性はさておき、管理人さんが「無駄ではない」と言ったところで、ただの水掛け論になるだけでしょう。水を掛けるだけならまだしも、評者をラノベしか読んでいない人と決めつけて話を進めていくのは、お世辞にも褒められることではないです。

これだけ書いて結局なんなんだ、と聞かれてしまいそうですが、はっきり言って特に何もありません(笑)。ただ、「どっちにしても、皆さんわりと保守的なんですのな……。」と書いていますが、僕は管理人さんも十分保守的な立場にいると思いましたね。

投稿: | 2010.12.04 13:38

>「無駄」という言葉を確かに用いていますが、ただの言葉のアヤに過ぎないのではないでしょうか

そうですね。ちょっと自分でも書き方が良くなかったと思うんですが、おそらく書き手もそこまで強い意味を込めていなかったとは思います。ただ”無駄”と言うのはいささか意味が強すぎるんですよね。ややもすると、この作品が過剰に貶められかねないと感じました。

つまり「ガガガ文庫の編集がまるで機能していない」→「この作品は商業レベルに達していない」と言う論法になりかねないのではないかと。それは不当に過ぎるし、そこまで非難するのは誰がするにしても筋違いではないかと思います。

その事を書き手がどこまで意図してたかはわかりません。ただ、そのように受け取られかねない発言を非難すると言う形にしているつもりです。分かり難いですが。

>評者をラノベしか読んでいない人と決めつけて話を進めていくのは、お世辞にも褒められることではないです。

これはお叱りはごもっともで、非常に品の無い発言でした。事実に反していたらこれほど失礼な発言はありませんね。自分では冷静なつもりでしたが、やっぱり頭に血が上っていたようです。反省します。

>管理人さんも十分保守的な立場にいると思いましたね。

自分は物語原理主義なので、ガチガチの保守派です。保守派にも派閥があるんでしょうね。

投稿: 吉兆 | 2010.12.04 15:03

twitterの話題の中心がまいじゃー推進委員会の人な辺り、
「評者はラノベ以外をあまり読んでいないんだろうな」はあながち間違ってもいないと思った

投稿: , | 2010.12.04 17:46

この場合、真偽はあまり重要ではなくて、本人のことを知らないのにこのような発言すること自体が良くありませんでした。こういうのを言いがかりと言います。軽率のそしりは免れませんね。

投稿: 吉兆 | 2010.12.04 23:27

もちろん皮肉です。基本的にブラックユーモア大好き人間なんですけど、ブクマを読むに、こういうの、意外に通じにくいんですかねぇ。一発で理解したラボ先生は、さすが本職と思いました

投稿: ub7637 | 2010.12.06 18:16

twitterは文章が断片化されているので、文脈が読み取り難いんですよね。さらにまとめられていても、その発言が本当にまとめられた文脈で語られているか分からないから、非常に誤解を招きやすいメディアです。別のポストを受けての発言かもしれないですからね。

だからtwitterでは”文脈”をなんとなく読んでもらおうと言うのは、はっきり言って難しい。なんとなく匂わせるような発言をすると、誤って汲み取られる可能性が高いので注意した方が良いのでしょうねー。

浅井ラボ先生も、皮肉だと思っているのかあるいは本気で発言者が分かっていないと思っているのか、分からないですね。まあ、角川との軋轢を考えると愉快な話題ではないことは間違いないでしょうが……。

投稿: 吉兆 | 2010.12.06 21:00

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