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2010.12.29

『月光』

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月光』(間宮夏生/電撃文庫)

なんだか知らないがやたらと面白く読めてしまった。とは言え(誤解を恐れずに言うと)、ミステリとしてもサスペンスとしても、きちんと作っているけれども(もっとも、”きちんとしている”と言うのも大切なことだけれども)、それ以上の何かがあると言うわけでもないように思います。少なくとも、傑作とかそういう類いの作品ではない。けれど楽しいと言う、自分にとってはわりと珍しいタイプの作品でした。

思うにこの楽しさは会話劇の楽しさと言う側面が強く感じるんですけどね。ただ面白いのは、単に会話が軽妙というだけではないんです。会話が軽妙な作品なんて、それこそいくらでもあって、それだけだったら自分はあまり評価しません。この作品の良いところは、会話の裏側にある駆け引きとかが、ベタと言うかサスペンス的にはそれほど奇を衒ってはいないのだけど、会話劇の軽妙さとあいまって不思議な牽引力を発揮しているところだと思うのです。いちいち絶妙な謎の振りまき具合と、主人公のヒロインの含みのある会話が上手くシンクロし、妙に続きを気にさせられてしまう(”させられてしまう”んですよ)。

あと、個人的にも気に留めずにはいられないところがあって、ミステリアスなヒロインと斜に構えた主人公の、なんと言うかお腹の中をくすぐられるようなむずがゆい(自分だけかもしれない)会話には、直視できないような感じがあります。いや、その、気恥ずかしくて…。主人公の斜に構えっぷりが、昔の自分を見ているようで、なんかいたたまれ無い感じなんですよ。ああ、確かにこういう人生全部を斜に構えてバカにしていた頃ってあったなあ…って。まったく、「人生に退屈」なんて台詞は中学生までにしとけっての!(自分は高校まで思っていましたがね)

話が逸れましたが、そういう主人公がいろいろと頭をめぐらしつつ、ヒロインと相対する展開は確かにロマンがあって、どうにも嫌いになれないところがあります。このヒロインはとても良いですね。いろいろと無関心になっていた主人公が、珍しく興味を持った少女。果たして彼女はすべてを操る魔女なのか、それともただの変人なのか。その正体の知れなさはに興味をそそられる主人公には確かに共感を覚えました。確かにこんなクラスメイトがいたら(しかもしれが美少女だったら)興味を持たずには入られないよなー。そして、そんな美少女と、丁々発止な駆け引きもしてみたいという欲望は確かに分かる。つまり、自分にとっては、これ、ものすごい願望充足な作品だったんですね。得体の知れない相手と、会話の中で罠を仕掛け、正体を探る。たまんないっすねー。

ただまあ、個人的には作者の真価が問われるのは次回作からだと思います。今回の楽しさの多くは自分の願望充足にぴったりはまったと言う面が大きいので、あんまり客観的に評価出来ないんですよ。次回作を読んで、客観評価できれば良し、出来なかったら作者は自分の大好きなものを書く作家としてついていこうと思います。

さて、今回の作品はわりと一発ネタに近いものがあるので、次回も同じような話は出来ないと思うんですが(やってもいいけど、そんなに面白くはならないんじゃないかなあ…)、どうなるんでしょうか。作者が新しい設定を魅力的に作り出せるのか、あるいはキャラクターの魅力を追求していくのか。少なくとも、新しい事をしなくてはいけないと思うので、ちょっと気にかけておきたいと思います。

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