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2010.12.05

『フルメタル・パニック!(12)ずっと、スタンド・バイ・ミー(下)』

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フルメタル・パニック!(12)ずっと、スタンド・バイ・ミー(下)』(賀東招ニ/富士見ファンタジア文庫)

気の向くままに書いたら、12巻だけではなくてシリーズ全体の思い出話みたいになってしまいました。だらだらと無駄に長いので、別に読まなくていいです。

フルメタも完結かー。初出が1998年だから、実に2000年代を通じて書き続けられた作品であり、この年代におけるライトノベルの代表作の一つであった、と言ってしまってもいいんじゃないでしょうか。少なくとも、2000年代を代表するラノベを上げよ、と言われたら自分はこの作品は候補5枠の内には入れるかな。残り4枠に何を入れるかは考えてないけど。

登場当初、長編と短編で”ジャンルがまったく違”っていて、非常に驚いた記憶があります。と言うか、たぶん、この作品が嚆矢であったような気がしますね。それまで、スレイヤーズなど、長編を書き下ろして短編を雑誌連載と言うケースはわりと普通にあったんですが(もっとも自分がドラマガを読んでいたのはずいぶん昔なので、現在はどうなのかは知らないんですが)、それでも長編と短編でジャンルが違うということは無かった。本編シリアス短編コメディと言う違いはあったけど、基本的にやっていることは同じでした。ところがフルメタは、本編がシリアスな架空ながら(当時としては)本格ミリタリーアクションラノベであり、宗介の兵士としての活躍が描かれながら、短編では兵士として純粋であるがゆえに平和な日本に戦場の常識を持ち込むことによって生まれるギャップを生かしたシチュエーションコメディであり、双方でやっていることの違いに、当時はものすごく感心したのでした。まあ途中で苦しくなったのか、短編連載終了してしまったけど、しょうがないかなと言う気もする。ニ作品を同時に書いているようなものだしね。

ただ、途中から続巻がなかなか出なくなったのは、やはり作者に対するプレッシャーは厳しいものになったのではないかと思われますね。良くも悪くもフルメタは有名になりすぎて、そして物語に要求される水準も途方も無く高くなっていて、単純な娯楽アクションだけでは収まらなくていたように思います。特に作者自身がそれを強く感じていたのではないかな、と妄想したりしました。『つづくオン・マイ・オウン 』を分岐点にして、それまでの爽快ミリタリー活劇からドシリアス方向に舵を取ったものの、そこからいささか迷走していたように思えます。一度、『燃えるワン・マン・フォース』で、”戦争”とはすなわち”殺し合い”であり、宗介は”人殺し”であると言う、人殺しの業に翻弄される人々を描くという、とてつもない暗黒ドラマを展開させたかと思えば、『つどうメイク・マイ・デイ 』ではハイテンションなロボットバトルに移行したり(ミリタリーは?)と、良く言えばバラエティ豊かで、悪く言えば話がブレ気味だったように思います。また、作者が物語の品質維持のために非常に努力しているのは良く分かるんですが、作品の視野を高く持つ弊害として、物語の細部が曖昧になってしまったように感じるのも残念なところです。ミスリル壊滅後、テッサの活動とかアマルガム側の策謀とかいろいろ大きな動きはあれども、結局、現場レベルの描写しかしなかったのは取捨選択の一つとしては理解できるものの(すべてを描写しては長編一冊に収まらない)、いろいろと物語を展開できる可能性があっただけに勿体ないことこの上ない。個人と組織の物語まで描いていけば、ジャンルを超えた傑作になりえたのかもしれなかったのだけど……。これはつまりジャンルを超えた傑作になるより、ライトノベルとしての完成度を取ったということかもしれませんね(またこれにも悪い言い方があって、つまり”冒険を避けて安全策をとった”と言う事も出来る)。

そのように大きくなりすぎていく物語を、ライトノベルとしての領域に留め、宗介とかなめの物語にまとめ上げていった作者の手腕は見事と言えますが、それによっていろいろ割を食った部分も多くあるように思います。特に宗介のライバルキャラとして登場したレナード・テスタロッサは物語の都合に翻弄されてしまっているように感じました。レナードは当初、妹であるテッサなど及びもつかない天才であり、同時にミスリルの大敵であるアマルガムの幹部として登場しました。常に余裕のある態度を保ち、かなめに対してアプローチをかけて来る描写から、レナードはミスリルの敵であると同時にかなめをめぐる宗介のライバル的な存在であることがほのめかされていました。事実、登場当初のレナードの”格”は限りなく高く、ラスボスになるのも味方になるのもどちらでも在りうるほどのキャラ格であったように思います。そのまま行けば宗介の対極者としての役割まで背負うダークヒーローの領域まで持っていけるかと期待をしたんですが、しかし、残念なことに彼の人物の掘り下げは物語が進むにつれても、ほとんど行われることはなかったんですね。と言うのも、宗介とかなめの間の物語力があまりにも強く、レナードの付け入る隙がそもそもなかったからです。かなめが、ほんのわずかでもレナードに男に対する好感を抱いていたら違ったんでしょうけど、かなめ自身のメンタルがあまりにも強すぎるため、レナードにはチャンスさえ与えられなかった。言ってみれば、間男にさえなれなかったのです。正直言ってこれは悲しい。男としてすごく悲しい。興味を持った少女に、まったく興味を抱き返してもらえなかったフラレ男。それがレナードの最終的な立ち位置になりました(言いすぎかな?いや、そうは思えないなあ)。おそらくレナードにとって最大のチャンスはかなめがレナードを撃ってしまった時ですね。あの時がかなめはもっとも罪悪感と同情で揺らいだ時期だったので、この時を逃さず捕まえればレナードにも勝機はあったと思うんですが……。その次の巻で、突然、頭に弾丸を食らってキャラが変わってしまったことに唖然としてしまいましたね。お前、ワイルドバージョンとか言っている場合じゃないだろうが(言ってない)。かなめにちゃんと構ってやれよ。何をやっているんだ(実はこのあたり、途中で路線変更があったんじゃないかと疑っているんですが……。やっぱり宗介とかなめの間にヒビを入れるのはヤバイと思ったんじゃないかと。下手するとかなめがビッチ扱いされかねない)。このワイルドバージョンも次の『ずっと、スタンド・バイ・ミー(上)』で雲散霧消してしまうし、このあたりにレナードの扱いが物語の都合に振り回されてしまっている感じがしますね。

最終決戦に当たる今作に至っても、レナードはかなめに従属している段階であり、男としては見られることはないんですね。作中におけるクライマックスは、おそらく宗介とレナードとのついに実現した五分の状況下による直接対決に当たると思うんですが、その時レナードが「なんだか知らんがとにかくお前が気に入らない」みたいなことを言い出すわけです。このあたりの文脈にはいろいろ考えるべきところがあるように思いますが、自分にはここに至っても、そんなレベルでしか対立軸が作れなかったのかなあ、と言う印象が強く残りました。つまり、二人はライバルにはなりえず、さらに言えば”敵”にさえなれなかったのだ、と。宗介とかなめの関係は磐石であり万全、余人の入る隙間はない。変貌したかなめを見ても、宗介は少しも揺らぎもせず、かなめも宗介に対する気持ちには揺らぎないため、さっきも書きましたが、恋のライバルにもなれない。敵(正確には宿敵)となるには二人の間には因縁が足りない(確かにレナードはミスリルの敵ではありますが、宗介自身はレナードに対する敵愾心は見受けられません)。二人が対決する理由が「任務だから」、「目的を邪魔するから」以外のものとなると「なんとなく気に入らないから」ぐらいしかなかったのかもしれませんね。やはり、途中のキャラ激変がレナードの敗因だったように思いますねえ。あそこできちんとかなめの罪悪感に向き合い、ついでにレナード自身の肉体に障害を遺すぐらいの重症を負っていれば、かなめの同情に付け込める可能性もあったのに……。まあ、これも後から考えればの話なので、後出しじゃんけんですよねー。

しかし、ラスボスの後にもう一山を残したのはけっこう良かったように思います。カリーニンの裏切りとしては正しい理由になるし、カリーニンの格も落ちないし、キャラもぶれない。そして、宗介が乗り越えるべき相手としてはこれ以上の相手はいない。その後の宗介の選択、決断まで、実に綺麗な終わり方でした。このあたりの落としどころは以前から練られていたんだろうなー。この終わり方なら、レナードが実はライバルでもなんでもなかった、と言う点も許せますね(あるいは、こちらのインパクトを強めるために、意図的にレナードのキャラ格を下げたのかもしれない)。

さて、ここまで散漫に書き綴ってみましたが(まとまらんかった……)、ここまで長く続いた、そして人気のあるシリーズを、何はともあれきちんと決着をつけてくれたことに感謝したいと思います。あのラストシーンは、いろいろな意味で感無量です。人気も出て作者のプレッシャーもとんでもないことになっていたと思いますが、ありがとうございました。コップクラフトの続きも、期待しています。

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