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2010.11.13

『カナスピカ』

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カナスピカ』(秋田禎信/講談社文庫)を読んだ。

少女と異星人……の人工衛星と言う定型を微妙に外した、しかし、美しいイメージ喚起力のある設定が勝因、って感じ。いや、まあ、自分が勝手に思っているだけですが、少女と宇宙からきた少年、と言う関係をそのままに、異世界感が出てくるような感じがするんですが、まあそれは別にいいや。

秋田禎信先生の初(かな?)の一般向け小説と言うことだったけど、いやーぜんぜんいつも通りの秋田先生でした。これはいかにもラノベであったということではなく、秋田先生はいままでライトノベルを書いているつもりがまったく無かったんだなーと言うことが良く分かりました。そもそも、この人の文体は極めてドライで乾いており、ストイックなんですね。もともと今の流行のライトノベルとはかなりかけ離れた文体なので(まあ今どきではないってことなんだろうな)、一般向けとは言ってもまったく違和感はなかったように思います。ストイックすぎて登場人物たちの思考が人によっては読み取り難いと思われるところもあるけど、自分はこのぐらいで問題ないかなー。ジュブナイルとしては適正な距離感ではないかと思われます。

また、この作品は実に正しい意味でのジュブナイルであったように思います。平凡な少女が、空から落ちてきた少年と出会い、一時の冒険を共にする。当たり前の日常に消耗していた少女が、少年と出会うことによって新しい世界を知っていくという極めて正しい作品として構築されていたように思います。ジュブナイルの常として、悪い大人と良い大人が出てくるんですが、さらに”良くも悪くもない”あるいは”良いことも悪いこともする”大人が登場するあたりは、現代性が高い部分であるように思います。今どきのジュブナイルは、ただ善と悪に対立するだけでは物足りない部分があるのかな、と思ったりもしましたが、まあ秋田先生的にはこの手の大人はしょっちゅう出てくるので、秋田先生のこだわりでしょうね。良い大人と悪い大人がいるのではなく、「良い行いと悪い行いがあるだけ」だ、って言うね。

少女にとって少年はそれまで自分が漠然と信じていた”世界”が極めて限定されたものだということを気付かされる存在であり、最初はそのことに反発し、惹かれていく過程が丁寧に描かれています。それは、彼女が”子供の世界”から”大人の世界”に目を向けるようになると言うだけでなく、空間的、そして時間的な広がりにまで向かって行くところは、少年の出自もあいまって美しく感じます。過去は忘れ去られても現代まで地続きで繋がっており、それは未来に対してもそうなのだということを、少しづつ少女が少年を通じて感覚していく。これが正しい意味での歴史と言うものであると自分も思うのです。

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