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2010.10.05

『私立!三十三間堂学院(10)』

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私立!三十三間堂学院(10)』(佐藤ケイ/電撃文庫)を読んだ。

ヒロインたちと法行の間にぜんぜん違う世界が見えているところが面白いなあ、と。作中で唯一の男性メインキャラである法行をめぐってヒロインたちがあの手この手でライバルを蹴落とし、出し抜こうとする群雄割拠の恋愛バトルが繰り広げられていると言うパートが一つあり、その一方で法行と、今回の巻におけるメインヒロインである浜まゆの物語が進行していく。この両立が、実に自然というか、お互いに微妙に影響を与えつつも決定的な結末には至らないまま続いていくというあたりに奇妙な引力を感じました。

法行は一人で熱血ヒーローを地で行く活躍をしており、そちらの展開は展開で実に王道的な物語が展開されるものの、水面下では法行をめぐる激しい争奪戦が繰り広げられる。しかし、そのことは法行には決して悟られることなく、争奪戦が繰り広げられた結果として、奇跡的に生まれた中立地帯で、熱血ヒーローをやっている主人公がいる。なんとも奇妙で、面白い構図だと思わざるを得ない。それぞれの展開は強引だったり、ご都合主義だったりするのだけど、法行の熱血ヒーローパートと、ヒロインたちの争奪戦パートが今にも干渉しそうでしない綱渡りが続いている展開は、なんとも言えないおかしみを感じるのだ。

確かに法行はヒーローである。彼は類い希なる能力を持っているし、その志も立派なものだ。だが、彼が成し遂げ勝ち得たものは、実はヒロインたちの恐ろしいまでのバトルとせめぎ合いの末に、彼の手元に降りてきたものであると言うことを彼は知ることはない。ヒロインたちもそれを知られることは好まないだろうし、そもそもその事実に気がついている人物もほとんどいない。この、少年がいろいろ頑張って成し遂げたことが、実は少女たちの気まぐれの結果として得られたものに過ぎないというあたりに少年の他愛無さ(実は少女たちに守られている結果に過ぎない)や、一方で自分のエゴむき出しで争う少女たちのあまりの身の蓋のなさに対する少年のひた向きさなどが表現されており、実に高度な技法であるように思いました。

世界は一面にしか捉えられないが、裏側を知っているから偉いわけでもない、と言う認識が良いと思うのです。確かに法行は少女たちのやっていることは何も知らなかったけど、法行が成し遂げたことは少女たちの誰も出来なかったことなのですからね。一面的な価値観に囚われず、かといって相対主義に落ち込むところのない、作者の素晴らしいバランス感覚を感じました。良い作品だと思います。

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コメント

こんにちわ。えーと、この作品のおすすめエントリを書こうと思っていろいろぐぐってたらこちらのブログにたどり着きました。右側のリンクのG.A.W.のものです。
やった、この作品のことほめてるブログがある!リンク貼る!と思ってからしばらくして、右のリンクに気づいてびっくりした次第です……。
いい作品なんですけども、ぱっとした人気は出ない感じですよねこれ。もったいないなーと常々思ってます。はい。

投稿: えむけーつー | 2010.10.28 03:36

うわあ。まさかえむけーつーさんにコメントをもらえるなんて思いませんでした(ひたすらブログを読んでいるだけの一読者だったので)。これだけでも感想を書いた甲斐があったというものです。

それはそうと、このシリーズは本当に言及されていることが少なくて、ちょっと悔しい思いがあります。”萌え”をテーマしつつ”萌え”には収まらない登場人物たちが本当に魅力的なんですけれども。売れ線ではないのでしょうか。

投稿: 吉兆 | 2010.10.28 08:50

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