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2010.09.23

『ゼロの使い魔(19) 始祖の円鏡』

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ゼロの使い魔(19) 始祖の円鏡』(ヤマグチノボル/MF文庫J)を読んだ。

今まで悪人か狂信者かと思われていた(少なくとも自分はラスボス級かとは思っていた)教皇ヴィットーリオが、実は確実に滅ぶハルケギニアを救うために、多くの人を操り破滅させる覚悟をもって行動していたことが判明したため、物語は一度リセットされた感じがある。エルフたちに罪はないかもしれない。それは別世界から来たサイトの目から見れば、おそらく確実と言ってもよい事柄なのだけど、物事の本質は罪があるかどうかではなく、何かを救うために何かを犠牲にするという決断を受け入れられるか、そして己の決断に責任が持てるのか、と言うところになっている。すでに善悪で判断できる事態ではないのである。

ルイズとの決裂しかかった関係をかろうじて修復し、友人であるタバサを救出したことで、サイトは己の戦うべき理由を失ってしまった。今までは自分の気に入らないことに立ち向かうというミクロな領域で行動してきたサイトだけど、すでにそれだけでは許されない立場におかれているということはここ最近の展開で明らかにされていた。その一方で、ルイズとの関係など、私事にばかり関わっていたのは、いっちゃ悪いけど現実逃避、モラトリアムであっただろうと思われます。本当に立ち向かうべき問題を先送りにしてきたのですね。

しかし、サイトの逃げ場(戦うこともまた逃げである場合もある)もついに塞がれてしまいました。聖戦の発動は目の前に迫っており、それに否応なしに参加しなくてはならない。これはサイト(とルイズ)は自身の好悪とは関係なく、それを行うにあたり必要不可欠な力をもっており、それを振るうことが多くの人々の命に関わることであれば、力を使うことは力を持つものにとって義務となる。そこに本人の意思は関係のないものとなる。

そうして戦争に巻き込まれることになる寸前に起こったサイトの誘拐事件。それにより、サイトは自分の目で、これから自分が戦争をする相手であるエルフを見ることになる。これまで使命感で封じていたエルフに対する罪悪感と、サイトは戦う必要が出てくることになる。しかし、これは同時に転機にもなるであろうことは想像できる。これまでは直面してこなかった、”顔のある敵を殺す”と言うこと。エルフについて、会話し、敵意の有無はどうあれ、サイトにとって、エルフとは”人間”と変わらない存在となった。サイトにエルフと戦争をすることが出来るとは思えない。となれば、ハルキゲニア滅亡の解決を、すべてをめでたしめでたしには出来ない、必ずどこかが犠牲にならなければ救われない物語を、なんとかして大団円にしなくてはならない。もし、サイトがエルフと戦わないという選択をするのならば、必ずそこにたどり着くはず。しかし、不可能だから、理不尽と呼ばれるのである。どのように解決するのか、そもそも出来るのか、道筋は見えない。

可能性としてはデルフリンガーの存在であろう。サイトにとって唯一の対等な相棒であり、彼を導いてくれるメンターでもあるデルフは、おそらくサイトを善導してくれる貴重な存在である。彼を失ったことで、サイトは自分と言う一個であらゆる問題に立ち向かわなければならなくなり、それによりサイトは新しい一歩を踏み出すことが出来た。再び戻ってきたデルフの存在は、それでは何をもたらすのであろうか?おそらくは関係性の変化があるだろう。それも動的な。それによって、まったく新しい考え方を創設しなくては、理不尽の連鎖は止まらない。止められないのだ。

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コメント

もう全然「ライト」ノベルじゃないスね。
良いことだと思いますけど。シャナとかね。

投稿: シロ | 2010.09.24 19:55

いや、ライトノベルではあると思いますよ。女の子は可愛くてラブコメもあってちょっとHなイベントもあって。

ただ、そういうことを書いている人はたくさんいるので、この作品の別の側面について書いているだけです。ラノベ的に装飾されているけど、実は「少年の成長物語」として、そして「個人と社会の関係を描いた作品」としての側面ですね。

どっちが正しい読み方だとも思わないし、読みたい人が読みたいように読めばいいんじゃないでしょうか。

投稿: 吉兆 | 2010.09.25 00:38

あ、そうなんですか?吉兆さんの感想読んだだけだったんですが、そうかー。まだラブコメ要素あるのね。
しかしだとしたら余計怖いかも。なんというか。

投稿: シロ | 2010.09.25 22:27

すごくシステマティックに構築しており、作者の優れた手腕を感じさせます。

投稿: 吉兆 | 2010.09.26 00:22

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