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2010.08.22

『不堕落なルイシュ』

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不堕落なルイシュ』(森田季節/MF文庫J)を読んだ。

予想以上に不条理劇な印象が強くて良かった。例えば同い年にしか見えない実母なんてライトノベル的には珍しいことではないが(ホント、ライトノベルって異常な世界だよな)、その異常が、作品中では正常であると強調した上で読み手には異常に思えるという点がなかなか素晴らしかったのではないか。登場人物たちが当たり前に受け止めているからこそ、異常性が際立つ。また作者特有の平衡感覚を失調させるような会話感覚もまた作中に良い作用が働いており、どう考えても異常でグロテスクな世界が生まれているように思うのである。

そして主人公はそのグロテスクで平凡な世界の中で、とある少女に恋情を抱き、その少女が狂った世界の狂った倫理によって抹殺されるということに対して反抗するという話になるのだけど、彼の恋情は単に政府に逆らうとかそういうレベルではなく、一つの世界と言うか、”空気”に対して抵抗しなくてはならないというあたりが実に認識戦の様相を呈しており好ましい。勝利条件は世界を滅ぼすこと(文明的な意味で)しかないもんな。セカイ系といえばセカイ系だけど、むしろこれは不条理SFに近く、「異常な世界で正常であることとは?」と言う問いだけで物語が成り立っているというあたりに滑稽さを感じた。この手の思考は本当に深刻な問題で考えすぎると気が狂う(あるいは正常化する)ので、語るには笑いが必要だということなんだけれどもね。

まあ、そんな相手に主人公が勝てるわけがなくて、当然のように負けるんだけど、そこで活躍するのがタイトルにもなっている主人公の妹、ルイシュさんなんですね。ちょっとこの人の役回りがいま一つ納得がいってないんだけど、一言でいうと彼女は主人公の”女神”なんですね。主人公が迷える時は導き、力を貸し、正しい道を歩けるように行動する。動機はどうであれ、彼女は絶対的に圧倒的に正しく、主人公は彼女が開いてくれた道を歩いているだけに過ぎないとも言える。そこにとてつもない安心感をもたらしているわけだけど、ただ、彼女の役回りは庇護者であり、彼女がいる限り主人公は成長できないし、今の主人公はほとんど妹に手を引かれているだけのレベルにある。

成長しなくては生きる価値なし、なんてまったく思わないが、この甘やかされた世界への反抗と言うのは、どこか思春期や反抗期的な社会に承認された反抗のように捉えられなくもなく、ルイシュの立ち位置によってはこの作品のテーマが訳分からないことになりかねない。彼女は社会側に立つのか真の反抗者であるのか、なんとも分からないところだなあ。

ただ、なんとなくルイシュが世界に意味を持つ感覚がないわけではないので、作者がこの思考実験をどのように展開させていくのか気になるところではある、続くといいんだけどなあ。

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