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2010.08.18

『鴨川ホルモー』

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鴨川ホルモー』(万条目学万城目学/角川文庫)を読んだ。

初めての万条目学万城目学。ずっと積んであったのを読んだ。なんか申し訳ない気がする。

京都を舞台にした、なんて言うんだ、マジックリアリズム的なスポ根小説。ごく普通に鬱屈している主人公がホルモーなる謎の競技を行うサークルに入会したことから恋とユーモアと恐怖に満ちた物語が始まる、と言う感じ。京大生である主人公はまあいわゆる非モテと言うか非リア充と言うかそういうタイプで青春に鬱屈しているわけですが、その生態を面白おかしく描くのではなく、普通に苦悩し、時に逃避したり、片恋相手への懸想に煩悶としたりする様を、淡々と描いている。そうした平凡な日常の中に”ホルモー”と言う異物が転がり込んでくるのである。

そもそもこの作品において、”ホルモー”がとことん異物である。ホルモーがなければ普通(褒め言葉である)の青春物語とさえ言える。しかし、この作品には”ホルモー”があるのである。”ホルモー”とは何か?と言う点については、まあさして引っ張る内容ではないので書いてしまうが、なんだか良く分からん生き物を使ったリアルタイム戦術シミュレーションのようである。なんだか良く分からん生き物と言うのは別に誤魔化しているわけではなく、本当になんだか良く分からん生き物なのであり、最後までなんだか良く分からない。そんななんだか良く分からない生き物を使って四聖獣になぞらえた他大学と学校間バトルを日々繰り返しているのが”ホルモー”なのである。正直、なんだか良く分からない。

このなんだか良く分からない”ホルモー”と言うスポーツ(かどうかも定かではない)が、言うまでも無いがこの物語の根幹である。このなんだか分からない代物が存在することで、それ以外の要素では生真面目な、遊びの少ないとさえ言える青春物語に、得体の知れない”緩さ”と”異界感”を付与しているように思えるのだ。ホルモーが存在するだけで、そこは異界となる。この世ならざる何かが現出する。ホルモーについて物語が進むにつれて説明がされるのだが、それさえも単にサークルの先輩たちが勝手にホルモーについての現象を語っているに過ぎないのであり、結局ホルモーとは何がなんだか分からない。

そして、何がなんだか分からないからこそ、ホルモーと言うものの不気味なまでの存在感が生まれる。自分たちが当たり前のものと捉えていたものが、実はまったく異なる”何か”なのではないか、と疑いを覚える感覚。これこそが異界感であり、幻想の現出と形容すべきものであろう。この世にはなんと”わかった振り”をしていることが多いことか。すべては”何がなんだか分からないもの”であり、世界は人間とは無関係に動いているのである。人間はそれらに適当に名前をつけて理解した気になっているが、それは何も分かっていないことに等しいのである。

主人公たちは”ホルモー”について最後まで何もわからない。ただ、主人公たちの行動がホルモーに”何か”を及ぼし、その結果、ホルモーは”何か”になろうとしていた。主人公たちは結局なにが正しいのか分からないままに昔から伝えられていた”儀式”を行うことで、ホルモーを鎮めることになるのだが、それによって”何が起こったのか”と言うことについては分からないままになる。

だが、先ほども書いたが、”世界は人間とは無関係に動いている”のである。この世には科学で説明できないことがある”のではない”。科学さえ人間の視点から世界に対して勝手にレッテルを貼っただけに過ぎない行為であり、世界は科学とは無関係に動いている。人間は世界の特定の運動に名称をつけたに過ぎず、その運動が”何のために”起こっているのかはついぞ知ることが出来ないのだ(現象を解釈すること自体が人間の視点で物を見ているに過ぎない)。

だから、世界はそのままで良い。世界が何故動いているのかと言うことを知るのは、人間の傲慢と言うものである。人間は人間の視点で世界を観て、人間の解釈で世界を理解する。そのことだけを理解して、世界を接していくことが出来るのみだ。

世界には、異界が隠れているのではない。異界はどこにでも存在しているが、人間は異界を”認識出来ない”だけなのである。

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コメント

「ああ。もう俺わかった。世の中ナメてた。ホルモーを見てる限り、この世界は俺らが理解できるような代物じゃない。勝手に判断してただけだ。スンマセンでしたホルモーさん。世の中って、わかんねえモンだな」、みたいな?むしろ人間こそ世界に対して異物、みたいな?
本文読んで思いました。

投稿: | 2010.08.19 09:35

人間こそ異物、と言うよりも、世界のことがわからないのと同様、人間だって何一つ分かっていないんだ、って感じですかねえ。

分かったような気がしているだけで、世界はどこまでも未知で溢れているし、それは幸福なことかもしれない、とかなんとか。

投稿: 吉兆 | 2010.08.19 23:53

…スンマセン。まんじょうめ まなぶ だと思ってません?思ってるでしょ。実はね、これがびっくり まきめ まなぶ なんですよ。だから万城目学なんですねコレが。

投稿: シロ | 2010.08.21 09:08

うわ、本当だ。感想を書く前に本を読み直したりもしたのに、全然気がつかなかった…。思い込みって恐ろしいなあ。

シロさんの指摘には、ここ最近覚えが無いほどにびっくりしてしまった…。

投稿: 吉兆 | 2010.08.21 10:16

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