« 買ったもの | トップページ | 買ったもの »

2010.07.04

『神様のメモ帳(5)』

516sozgwpcl__ss500_

神様のメモ帳(5)』(杉井光/電撃文庫)を読んだ。

杉井光は実にテクニカルな作家であると思います。物語の手続きはきちんと踏み、そこから手を変え品を変えて物語を作ってくる。ただ、そこから離れたことはしない(出来ない)と言う、良い意味でも悪い意味でも、テクニカル。たぶん、自分なりの作劇術が確立しているんだと思うんですが、そこから飛び出ることはない。そんな作者に対する印象を改めて感じてしまいました。作品自体は面白いし、楽しいです。アリスは魅力的だし、彼女を中心としたニート軍団もそれぞれがいろいろ動き回っているのも面白い。でも、そこに杉井光自身がどう思っているのかが良く分からんのですね。多分、読者にとって面白い展開を意識していると思うんだけど、本当に作者自身が面白いと思って書いているのかがよくわからない。該当部分の筆致の冷静さから判断するに、別に杉井光は幼女が好きなわけでも幼女に罵倒されるのが好きなわけでもなさそうだしな。いや、あるいは自分のフェティッシュな性向を完全に切り離して書けるほどにテクニカルと言うことなのかもしれないが。結論、良く分からんです。

今回は短編集なので一応各話感想。

「はなまるスープ顛末」
これは…どうなんだ?サングラスの男の正体については多くの読者の予想するところではあったと思うんだけど、それからストーカー事件とのつながり方は一体…。一応、伏線を張っていた(こういうところが本当に作者は用意周到ですね。褒めてません)から、まあ、いいのか、な?

「探偵の愛した博士」
このタイトルを考えたのがナルミだと思うと、本人の羞恥心とか自己嫌悪とか伝わってくるようで、杉井光は大変良い仕事をしたと思います。ただ、読者的には謎そのものではないけど、ナルミがミスリードされたある出来事についての答えになっているので、まあ注意するほどのこともないが、気をつけて。「酒好きが酒をやっちゃだめねえ」とおばさんの台詞が地味に良かった。ちょっと、本気の重い溜め息を幻聴した。幻聴するほどに世界につながりがある、って言葉だ。あの台詞は。ひどく後悔を感じさせる言霊がこもってたよ。

「大バカ任侠入門編」
このあたりになると、だんだんアリスとナルミの力関係も崩れてきていて、天然で直球なナルミの素直な感情表現に、アリスの方が動揺すると言う構図になってくる。ナルミもたくましくなって、自分の中に感情をためこまなくなった反動なのだろうかね。いろいろ他方面への活躍っぷりが留まるところを知らず、ナルミのリア充無双が始まりです。

「あの夏の二十一球」
あまり社会では役に立たない才能と努力を発揮するナルミだけど、まあいろいろと吹っ切れていて、精神的に非常な安定時期にあるみたいな感じだ。嫌らしい言い方をすると、もう一度ナルミをどん底に叩き落すフラグとも言えるが・・・さてね。最後のナルミパートはなんとも詐術的でしたな。来る球種がわかっても打てるとは思えないし…。うーん。

そして総括。どの話もそうだけど、アリスはすべての謎を解く。そこには事実しか残らない。どんなに残酷でも、苦しくても、”代替”のないもの。それが事実。アリスはそれをつきつけるけれども、しかしナルミはその事実に色をつける。事実に色をつけるとはすなわち”解釈”すると言うこと。無味乾燥な事実、”誰かのために真実”を生み出す。事実を暴き、真実を捧げる、この探偵コンビは実に良いコンビじゃねえの、と思いました。分かりやすく言うと、アリスは事実担当、ナルミは物語担当、と言うことなのですね。人は事実のみに生きるにあらず、物語によって生きるのだ。

|

« 買ったもの | トップページ | 買ったもの »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29313/48796148

この記事へのトラックバック一覧です: 『神様のメモ帳(5)』:

« 買ったもの | トップページ | 買ったもの »