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2010.07.14

『秋の星々の都 永遠の戦士フォン・ベック(2)』

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秋の星々の都 永遠の戦士フォン・ベック(2)』(マイクル・ムアコック/ハヤカワ文庫SF)を読んだ。

これはきついなあ…。全体的に観念的すぎて作品としてのバランスが崩れているのはムアコックらしい作風と言えるのだが、ちと今回は主人公のマンフレッドがヒロイン…と言っていいのか、クレタの女公爵リブッサに懸想し続けて、寝ても覚めてもリブッサへの劣情で悶々としている独白を読ませられると言う、恋愛小説が苦手な人間(つまり僕だ)に対しては拷問とさえ言える展開が延々続くと言う大変厳しい内容。さらにこのリブッサと言うのが非常に独立心旺盛かつ不羈不遜と言う、物語の時代設定から考えると非常に進歩的な女性であり、男性に対して支配的に振舞う、悪い言い方をすれば悪女的な人物なので、読者である自分から見ればマンフレッドはリブッサに利用されているだけで最終的に必要なくなれば捨てられることは目に見えているのに、ちっともマンフレッドは気がついてくれないと言う極めてストレスフルな展開になるのであった。まあリブッサと言う人物そのものは、おそらくひとかどの人物であるとは思うんだけど、恋人にしたいとは絶対に思えないからなー。野心と恋人で、躊躇なく野心を選べる人物は、ジェンダー小説としては興味深くもあるけど、どう考えてもヒロインとはいえないよね。まあ、女主人公と言う意味でのヒロインならば該当するかもしれないが…。

絶対に報われるはずがないのに、リブッサのためにほいほい危機に立ち向かってしまう(しかもそのことに反省しないと言う体たらく!)マンフレッドは読み手としてはとにかくハラハラさせられました。そもそも自分、恋愛の過程にまったく興味がない人なので、こういう恋愛の過程で駆け引きが描写されても面白さがちっとも分からない。物語の半分くらいがマンフレッドの劣情で構成されている今作は、実に読むのが大変でした。しかも、恋愛描写がやたらと観念的ときているから、厳しさは倍増しております。ただでさえ恋愛描写は読む気がおきないのに、読解しなければ理解出来ない恋愛描写とか、どんな嫌がらせだよー。

まあ、絶対途中で裏切ると思っていたリブッサの最後の描写はなかなか興味深くはあったな。あ、別に恋愛が成就するとかは無いですよ(そんなことはありえない)。ただ、このリブッサは利己的ではあっても悪人ではなく、ただ野心に溢れていただけなんだよね。世界を我が物顔で牛耳っている男たちを抑え、自分が(観念的世界で)頂点に立とうとした。その野望自体は善悪では語ってはいけないところだろうと思うのです。女であるだけで一段低く見られるか、ただの劣情の相手としか見られない時代、世界にあって、彼女のような野心を抱いた人間はとてつもない労苦を味わったであろうことを考慮すれば、単純に世俗的な野心を抱かなかったリブッサはむしろ見事な人生であるとも言える。

と言うわけで、マンフレッドはあくまでも彼女に恋をする脇役A、あるいは彼女の語り部であり、リブッサこそがこの物語の真の主人公であるのだろうと思います。そしてそう捉えることによって、とてつもない苦行であったこの作品も、少しは見通しが良くなったかなとも思います。野心や能力もあり残酷で気まぐれな男たちの中で、ときに冷酷に、あるいは女の武器を使って切り抜けていくリブッサの物語としては、なんとも痛快な物語じゃあありませんか。ただ、主観人物となるのが彼女に利用される男A、と言うところがなんとも皮肉的とも言えますが…。

あ、書きながら思ったけど、本当にこの作品はジェンダー論的な作品なのかもしれない。本質的に”男性向けポルノ”であるフィクション世界の中で、その秩序に反旗を翻した女性キャラクターが主人公であると。男性視点のまま、女性優位の物語を描いたことによって、男性読者が不愉快な感触を覚えるのはむしろ当然のことなのかもしれない。だって、エンタメの大原則を否定しているわけだからね。リブッサは、女性を快楽の道具としてしか見ない世界秩序に対してこそ、憎むべき敵であったのでしょう。世界に対して立ち向かった”女性”を男性の視点から描写する。そういう意味では、なんとも意欲的な作品であったと言えるように思います。

あと一緒に掲載されている短編「フェリペ・サジタリウスの快楽の園」については…うん、ぜんぜんわからん。なんでこれをフォン・ベックシリーズに組み込んだんだぜ…。読解がややこしくなるじゃねーか。フォン・ベックシリーズでなければ幻想的な雰囲気が漂うブラックな短編として評価できたと言うのに…。まあ、自作をどうしようと作者の自由ではあるんですがねえ…。

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