« 買ったもの | トップページ | 2010年3月に読んだ本 »

2010.04.04

『ゼロ年代SF傑作選』

61hzc9xjql__ss500_

ゼロ年代SF傑作選』(S-Fマガジン編集部/ハヤカワ文庫JA)を読んだ。

傑作選の名にふさわしい選集だった。と言うか、自分にとって傑作であったというべきか。なんだかんだ言いつつ、自分のSF者(にわかだけど)としての立脚点はこのゼロ年代(この単語好きじゃないけどね)にあったわけで、そのゼロ年代を代表するような作品集であり、それゆえに自分にとってもっとも面白い作品集であるのだろう。

などど意味不明な前置きは置いといて、以下各作品について。

「マルドゥック・スクランブル”104”」(冲方丁)
本編シリーズとはパラレルな話なのかな(ボイルドがいるのに09法令が成立しているところとか)。まあそれはともかくとして、普通にすごい作品。冲方氏のメインテーマであるところの、”暴力”と”倫理”の話なんだけど、それをユーモアたっぷりに、かつ痛切に描いているところがすごい。暴力は暴力に過ぎず、それによって決定的なまでに傷つく人がいる。ならばそれを否定すればよいのかといえばそうではなく。暴力によって傷つく人々を救うこともまた暴力を用いなくてはならない矛盾。その矛盾を体現するウフコック。短くも激しい暴力と倫理の葛藤は、暴力を肯定するのでもなく、否定するのでもない結末にたどり着く。ううむ、すげえ。

「アンジー・クレイマーにさよならを」(新城カズマ)
恐るべきことにこれもすごい作品。何しろ近未来の女子高生の物語とスパルタの興亡が並列して、ときにお互いに干渉し合いながら描かれるのだ。歴史と言うものからの断絶。世界からの浮遊。スパルタの存在しえなかった物語と、少女たちの浮遊する物語。スパルタは滅びた。歴史も消え去った。少女たちも滅びるだろう。だが少女たちの生きた世界も滅びるのだろうか?彼女たちの物語は続くのだろうか?すべては浮遊する(そう、飛翔ではない)物語の中に消えていくのだ。

「エキストラ・サウンド」(桜坂洋)
まあこれも悪い作品ではないんだけど…あくまでもスラムオンラインの後日談と言う意味合いの作品ですね。小粒な、まあ短編らしいと言える。ただ、こっちではリアルとバーチャルをどのように生きていくのかと言う点を、極めてアナログ(現実的とも言える)な視点で描かれているのが興味深くはあるね。

「デイドリーム、鳥のように」(元長柾木)
これがすごく困った作品でねえ…。うん、正直、全然わからん。作者が何を言いたいのかさっぱりだ。全死大戦も大概理解しにくい作品だったが、これほど意味不明ではなかったよな。そもそもラスト近くにあるサプライズがあるのだが、そのサプライズに何の意味があるのかわからなくて、ますます困惑する。素直に読んでしまうと、ただの必殺仕事人のアレンジにしか読めないんだけど…そう読んでも全然面白くないんだよなー。どうすれば面白く読めるんだこれ。

「Atmosphere」(西島大介)
この乾いた感触がたまんねえなあ。増殖するドッペルゲンガーを殺すことで世界は安定を保つとか、なんかもースゲーゾクゾクすんだけど。クールだなあ。

「アリスの心臓」(海猫沢めろん)
こいつも頭を抱えてしまった…。なんでシナリオライター上がりはこうも物語性を無視すんだよ!お前らはアイディアだけをぶちまける製造機か!!さっぱり分からんわ!!とブチ切れたいのは山々だが、まあ、落ち着くとして…。そうだなあ全然わからんなりに考えると…神の存在とエロ本の話、なのかな?神とは高次元の存在であり、次元の低い存在には想像の及ばないからこそ神であると。で、神と言うものはエロ本における女の子の存在に似ている…???だめだわからん。あと文字組みに仕掛けをするのは本当にやめてくれ。あんまおもろないから。

「地には豊穣」(長谷敏司)
文化や習俗や経験や知識が習得可能な世界になったとき、人種とは何か?個人がよすがになるものは?自分が何物にも属していないことを知った主人公は、それが偽物と知りつつも”日本人”としての基盤を求めようとするが、それによって”人間の意思”と言うものの曖昧さに直面することになる。”自分”とはどこにあるのか?特徴的な日本人としての文化を刷り込まれた自分とそれ以前は何が違うのか?ただ、文化とはアウトプットのフィルタリングに過ぎないのではないか?などなど、極めてスリリングな問いが投げかけられる。文化と言うものは幻想に過ぎないのか、あるいは繋がるものなのか。それを是とするには、ラストシーンがちと美しすぎるよなあ。

「おれはミサイル」(秋山瑞人)
もはや地上の存在など伝承のレベルに失われた空で、ひたすら戦い続ける戦闘機とそのミサイルのコミュニケーション。一度でも撃つときが、ミサイルの最高の桧舞台であると同時に存在が消滅するとき。しかし、それに対して喜びを覚えるミサイルと、複雑な思いを抱く戦闘機。これは異種間のコミュニケーションであると同時に、熱き友情の物語でもあるのだ。って、なんなんだろうなこれは…。ものすごい未来感と、レトロな雰囲気と、恐るべきサイバーな感じと、熱いバトルが渾然一体となって打ち出されるのが最後の美しくも物悲しい最後で終わる。本当になんなんだこれは…。

とまあ、一通りコメントを書いてみたけど、なんだかんだと言ってすべて実にスリリングな作品ばかりだった。途中で頭を抱えたり、意味わかんねーぞコラァ!とキレたりしたけどやっぱり楽しい。自分の理解できる領域から多少”逸脱”している作品は読んでて楽しいよな。自分の予想外の内容になるから。まあ逸脱しすぎると理解不能になるので、ほどほどにして欲しいけど…。「アンジー・クレイマー」と「アリス」はギリギリだった。「デイドリーム」は…すいません、誰かあれの読み方を教えてください。

|

« 買ったもの | トップページ | 2010年3月に読んだ本 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29313/47997063

この記事へのトラックバック一覧です: 『ゼロ年代SF傑作選』:

« 買ったもの | トップページ | 2010年3月に読んだ本 »