『烙印の紋章(5)そして竜は荒野に降り立つ』
『烙印の紋章(5)そして竜は荒野に降り立つ』(杉原智則/電撃文庫)を読んだ。
前巻にてついに復讐を果たしたオルバのその後。と言うわけで第二部開始だ。よかったよかった。4巻目で一部完なんて打ち切りフラグ満々だったもんな。ちゃんと続いて一安心。
当初の目的を果たしてしまい、目的を見失って放浪するオルバが、再び立ち上がるという巻。まあ元々が復讐を目的としていたために、彼にとっては権力とは復讐の手段に過ぎなかったのだから、ある意味当然の展開だよな。もっとも途中で権力を振るうことの快感を覚えていた時期もあったけど、兄の死を受け入れたことによって、そちらの方向への道は回避されたこともあり、もはやオルバには権力を振るう理由も必要もなくなっていた。結果、抜け殻のようになってしまった彼が、しかし、結局は身に染み付いた戦いの業を捨てることは出来ず、傭兵としてさすらうことになるのだが、そこで彼は”真の王族”に直面することになる。それまで彼が接してきていた腐った権力者としての王族ではなく、真に国を愛し、民のために汚名を被り、自分のすべてを擲ってでも己の責務を果たす王族に。ノブレス・オブリージュ。高貴なるものの義務を体現する存在に出会う。それは、ひたすらに権力に対する憎悪を募らせていた頃のオルバには決して受け入れられる存在ではなかっただろうが、己の復讐を果たしていたことと、なによりビリーナの存在もあり、彼はより大きな視座を持って人々を、民衆と権力者を見据えることが出来るようになった。王族は何のために権力を持つのか。権力とはなんのために振るうべきなのか。オルバは少しずつ、その意味に目覚めていく。それは己の復讐に凝り固まっていたオルバには決して届かなかった領域であり、オルバが真の意味で王者としての覚醒を迎える第一歩であるのだろう。
タウラン地域における戦乱は始まったばかりであり、ここからオルバの王者としての歩みが始まるのであろうと思うと、なかなかに高揚感のある展開である。敵する魔術師もまたおよそ尋常ならざる存在である様子であるし、戦いはおそらく厳しいものになるのであろうが、そこを人間としての、王者としての覚悟と意思で立ち向かっていくオルバに期待したい。
まあもっともまだ揺らぐ余地は残っているので(民衆と言うのは愚昧なるものですからねえ。守るべき存在を喪失したときが彼の危うくなるときだろう)、そのあたりにビリーナがかかわってきてくれると嬉しいなあ。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。




コメント
リアルでもファンタジーでも歴史好きにはたまらない内容です。この分野では個人的にロードス以来かもしれません。魔法が幅を利かせていないのが、これはこれでいいですね。
ただ、この調子じゃ人気はこれからも出そうにない(苦笑)。
追伸
またしてもHN変更
暗黒ファンタジーって云々~→暗黒ファンタジー→暗黒→幻想
名前変えすぎだよ俺orz
投稿: 幻想 | 2010.04.06 22:27
最近は電撃文庫読者も成熟してきたから、こういう作品もある程度は受け入れられているんじゃないでしょうか。でなければ5巻なんて出ないと思います(4巻で打ち切りが不人気作品のパターン)。
この世界設定(過去に殖民してきたが文明が退行した惑星)はSF的にも広がりがあって、わりとよい世界観だと思いますね。
投稿: 吉兆 | 2010.04.06 22:34
祝・杉原智則4巻の壁突破(ノベライズは除く)!
正直本当に出るとは思わなかった。いつも長くて4巻で終了、作風変えても終了でしたから。
とすると今回一旦終了したのは元々せいぜい4巻分までのプロットやネタ(策略、流れなど)までしか用意してなかったのかもしれませんね。
読者の成熟以外にも、リバイバル(他文レーベル含めこういった作品は少なくなかった)的なものや、近年の戦国ブーム(具体的には知りませんがここ数年程度だと思ってるので)からあまり漫画漫画してない作品の浸透とか、さすがにいい加減萌えが氾濫してきて出版社側もマイナー路線でも売れるものを見繕ってるとか色々理由考えられますね
投稿: HT | 2010.04.12 09:54
まあ4巻で終わらせてもいいようにしていたのかもしれないし、最初から予定していたかもしれません。その辺は分かりませんね。ただ、最初からオルバが英雄になるというのは最初から匂わされていたので、復讐をとっとと終わらせて、新しい段階に入ったというのは構成的には不自然ではないので、ある程度の構想はあったのではないでしょうか。
投稿: 吉兆 | 2010.04.13 00:03