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2010.03.03

『空色パンデミック(1)』

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空色パンデミック』(本田誠/ファミ通文庫)を読んだ。

セカイ系もここまで来たのか、と感慨深く読んだ。セカイ系と言う主観のみが支配するジャンルを、メタに構築するという誰もやらなかったことを成し遂げたと言う意味では、実に革新的な作品であったと思う。セカイ系と言うのは、セカイと個人が直結している作品を指す言葉であるわけで、そこに本来は客観の入る余地はないんです。客観的にものを見たら、セカイが自分に直結しているなんて信じられるわけが無いわけで。現実的には、セカイとは世界であり社会が個人の間を横たわっている。その俯瞰視点を持ってしまったとき、セカイ系は終焉を迎えることになるのだ。

しかし、そこであえて”社会と共存するセカイ系が存在したらどんなものなのだろう?”と言う問いを投げかけた点、それこそが実に見事でした。この作品における空想病という設定はまさしくコロンブスの卵とも言える発想の転換ではないかなあ。ちょっと設定を読んだぐらいだと別に斬新な設定とも思えないのだけど、よくよく考えてみると、これはセカイ系を現実的(ラノベ的現実、まあ”リアルな”と言うレベル)に落とし込む見事な設定だったと思います。病気として設定することで、セカイ系を生きる人々、セカイ系を生きる人々に巻き込まれた人々、セカイ系に巻き込まれた人々を眺める人々と言う何重にも渡る構図が生まれてくる。これ、描くのはけっこう面倒な気もするんですが、(この巻はなんとか収まったけど、今後どうやって展開させていくんだろ?どんなむちゃくちゃな展開も許容しそうな設定だもんなー)、きちんと意外性のある爽快感のある物語に仕上げているのは非凡な物だと思いました。なんつーか、セカイ系に対する徹底した批評性を持った設定でありながら、しかし、極めてまっとうなセカイ系になっているとでも言うのかな。やっていることは「世界を敵に回しても君を選ぶ」、そんな極めてまっとうな極限状態における感動的なボーイミーツガール。しかし、その批評性ゆえに、それら感動的なストーリーは再び現実に回収され、しかし、その”ストーリーを生きたという事実”は残る、と。おお、なんだこの完璧な構成は。セカイ系に対する批評でありながら、確かなエールでもある、と言う…。

作者はフィクションに対する確かな愛があるんだけど、その上で突き放して扱うことが出来るタイプなんだろうな、と思いました。これは物語にのめり込むだけでも、距離を取るだけでも作れない(と思う)作品だわ。作者がどこまでこのスタンスを貫けるのかはわからんけど、とにかくこの巻はものすごい感心して、そして興奮した。作者のスタンスがかっけー。

2010/03/04追記
この作品にはおそらく意図的にいくつか曖昧なままになっている事があるのだが(青井の性別とか)、その際たるものは主人公の姉の存在だと思う。主人公によって言及され、幾度も描写もされながら、驚くほど存在感がない。どんな人物なのか顔が見えない。そもそも主人公以外誰一人存在に触れないと言うあたりが不可解なのだが、まあそれぐらいフィクションにはよくあることではある。コロンボのかみさんみたいなものだ。ただ、どうも一点だけ(これは自分が気がついただけで他にもあるのかもしれないが)、矛盾した描写があって、すごく気になった。具体的には188頁-189頁。海から帰ってきた主人公が姉と会話する場面があるんだけど…その、なんで”日焼け”の話なんてしているの?直前にあなた一日中酒を飲んでた(つまり家に居た)と言う話してなかった?まあ陽の当たる場所の飲んでいたのかもしれないが…異様に不自然な描写だ。もしかしたら別になんでもない描写なのかもしれない。だが、この極めて批評性に富んだ作品ゆえに、もしかすると…いやいや、まだ何も明かされて無いんだから、先走りすぎだよな。ただ、なんと言うか、ゾッとした。ものすごく恐かった。

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コメント

「耳狩ネルリ」を排出した「えんため大賞」に敬意を表し購入した作品でしたが面白かったです。自分の中でこの賞に対する注目度&好感度が俄然上がりました。
188-189頁の吉兆さんの疑問点ですが、あの場面主人公は、酒に酔って肌が赤くなった姉を遊び心と揶揄を込めて「肌焼けた?」と言ったんじゃないかなと。酒焼けなんて言葉もあるくらいですし。

話題は変わりますが2巻の帯で吉兆さんの感想がピックアップされていて、おお! と思いました。

投稿: isaki. | 2010.05.04 23:39

本を確認していないので確実なことは言えないですが、ちょっと不自然すぎませんかね。なんでわざわざそんな皮肉を言うのか、良く分かりません。その後の姉の応対も意味深ですし。

コメントについてはお恥ずかしい限り。ブログと違って、なんか変な気分ですね。

投稿: 吉兆 | 2010.05.07 08:20

今更なんですが・・・
1巻を読み終えたばかりで・・・吉兆さんの疑問点は私も感じました。海にでも行ってたのかと、変に勘ぐってました。

あともう一つ疑問があるんですが、p282の最後の描写って南半球のことを表しているようなんですが・・・どういうことなんでしょう?
まだ、2巻、3巻読んでないんで、そちらに答えがあるのかもしれないんですが、いてもたってもいられなくなったのでコメントさせて頂きました。

投稿: osomaki | 2010.10.03 01:19

あー。最後のところのあれは、実は現実に戻ったように思わせながら、実はまだ空想の中にいたのだ、と読者の足元をひっくり返す演出であったと当時は理解していました。事実がどうであったのかは続きを見ていただく必要がありますねえ。

投稿: 吉兆 | 2010.10.04 20:36

返信ありがとうございます。

翌日にはもう2巻読み終えていたんですが・・・・なんかやっぱり読んでからにしておけば良かった、と、恥ずかしさのあまり、今までここを見に来られませんでした。
3巻も読み終わりましたが、ちょっとよく分からなくなってしまったので、質問させてください。
1~3巻まで主人公の仲西景は発作に持続的にかかっているってことなんですか?
それとも断続的なんでしょうか?

投稿: osomaki | 2010.10.27 01:02

んんー。僕は作家ではないので、あくまでも推測、妄想の類いになってしまうことを踏まえた上で言うと、一巻の時点で一度、発作は収まっていると思います。一方、二巻から三巻にかけては発作が続いていたみたいですね。

ただ、ここまで来るとどっちが現実で、どっちが空想なのか判断がつかないというか、いくらでも引っくり返りそうな気がします。次巻で、今までのは全部空想(あるいは現実)でした、と言われてもおかしくないですね。

投稿: 吉兆 | 2010.10.28 08:42

たった今一巻を読み終えました。
空想病(劇場型)という、一つの手段?をもちいたことで、当事者以外も空想に巻き込み、リアル(作中での)と空想の入り混じった、とても面白い作風になってました。また、リアルと空想がいりまじっているけど、あくまで空想は空想とすることで
学園バトルものとは違った日常と非日常の
同居がとても新鮮だった、ありそうでなかった作品ではなく、ありそうな作品だとおもったら良い意味でうらぎられる作品という印象を受けた作中でなんどもそういう表現や出来事もあった、ジャケ買いで良作だったのは久々なのでついつい興奮して長くなりました。(>w<)/

投稿: 北極のトド | 2010.12.07 01:57

こんにちは。この作品を読んだ時にはいろいろと衝撃的でした。今までありそうでなかった作品ですね。ここまで中二病をメタ的にエンターテインメントすると言うのは盲点でした。

作者には今後も期待をしていきたいと思います。

投稿: 吉兆 | 2010.12.09 20:48

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