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2010.03.08

『世界平和は一家団欒のあとに(9)宇宙蛍』

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世界平和は一家団欒のあとに(9)宇宙蛍』(橋本和也/電撃文庫)を読んだ。

家族一人ずつスポットが当たっていくシリーズだけに、ついにと言うか満を持してと言うか、星弓家最強の七美が今回のメインである。その活躍スケールは宇宙レベルであり、日々、宇宙連邦(みたいなの)と関わって、宇宙怪獣と戦ったり、地球の平和を守るために宇宙決戦を繰り広げたりしている。そんなわけで、彼女がメインになると話のスケールがやたらとでかくなって、なぜか地球の命運がかかった展開になったりする。しかし一方で、やっていることはいつもと対して変わらない星弓家の人情話でしかないあたり、さすがと言わざるを得ない。…展開がブレません。この作品のタイトル通りの展開です。世界だろうが宇宙だろうが、とにかくそんなことの前に、家庭の問題を解決する必要がある。なぜなら主人公たちの動機は常に”大切な家族が困っている”から”家族を助けるため”に戦うからです。あくまでも家庭の問題を解決するついでに、世界もまあ救ってしまおうかと言うノリ。とは言え、主人公たちがふざけているのかと言うと、決してそんなこともなく、もし、事態が悪化すれば世界が滅びてしまうかもしれないと言うことはきちんと認識しているのだけど、それでも家族の方が大事である、と言い切るところが実に現代の異能小説らしく、良い作品だなと思うのでした。

本当にしみじみと思うのは、これは創竜伝へのオマージュなんだなと言うことですね。世界を左右する異能の持ち主は、必然的に世界の命運に関わってしまうのだが、しかし、世界なんてものはたとえどんな異能の持ち主であろうと個人が支えきれる物ではない。皆、孤独と葛藤の内に、悲劇的な最後を遂げるか、自己犠牲的に生きるしかなくなってしまう。創竜伝はそのあたりの処理が実に斬新で、異能の持ち主が兄弟であり、兄弟を守ることが何よりも大事だ、世界の命運なんて知ったことかと言うスタンスを打ち出して、それは世界を背負う個人の存在を否定し、一人で支えられないのであれば、家族で支えればよいと言う認識を打ち出した、画期的な作品であったと言えるとおもうのだが、まさにこの作品はその正統な後継であると言えるように思う。世界の命運をかけて戦う異能の人々、しかし、彼らは過度に悲愴な態度は決して取らない。なぜなら、世界の重みに負けそうになったときは、必ず家族が助けてくれると知っているから。つらい時には、必ず家族が助けてくれると言うことが分かっているからこそ、彼らは常に明るく前向きに、今日も世界を救っているのである。

で、逆に言うと、彼らがピンチに陥る原因もまた、家族の問題に直結するのだ。彼ら異能家族にとって、最大の危機は、家族の危機。家族がなんらかの原因で亀裂が走ったとき、本当に危機が訪れる(まあそれは普通の家庭でも同じだけど…)。と言うわけで、世界の命運と家族の問題がリンクして、主人公の双肩にかかってくるあたり、構造的にきちんと成立しているところが、実に見事なものだなあ、と読むたびにいつも感心するのでした。斜に構えているものの、家族を思う気持ちは誰にも負けない軋人は、今回も七美に押し付けられた少女を世話をするうちに、家族に黙って問題を解決しようと奔走する彼女の苦悩を知る。知った以上、決して黙っては居られない主人公は、家族に負担をかけないように自分を犠牲にしようとする七美をどやしつけ、自分たちを頼るように、対話する。家族間の対話。実に美しいね。何度も書いちゃうけど、家族間の対話が、そのまま世界の危機を救う直接的、間接的な要因になっているのだ。

世界の危機と家族の問題が直結していると言う意味で、これはセカイ系の変奏曲なのかもしれない、とは以前にも書いたような気がするのだが、逆に言うと、現代では世界の危機と言うものは、家族の問題と同じレベルでしか認識出来ないという、リアルな感覚の延長なのかもしれないとも思うようになってきた。うん、これはセカイ系というよりも、もう少し現実的な話なのかもしれない。個人と世界の間に”家族”と言う問題が挟まっている。家族と世界が直結していると言う意味では、非常にセカイ系に近い構成をしているものの、どこかその視点は優しい。世界だ、運命だ、などと大上段に構えない大らかさがそこにあるように思えるのは、おそらく、家族が世界との緩衝材の役割を果たしているということなのかも知れない。

さて、今回で家族の話も一通り終わった(よね?)、おそらく次巻以降、クライマックスに入っていくのではないかと思われる。一巻から延々と引っ張り続けた柚島の話に戻るではないかなー。七美が宇宙に行って、しばらく帰ってこないと言うのは、明らかに超越的な助けがしばらく期待できないという伏線であろうし。柚島の事件に対して、軋人がまた体当たりでぶつかっていく展開になるのではなかろうか。正直、自分が読んだラノベ主人公の中でもトップクラスに好感度の高い軋人が、果たしてどんな活躍をしてくれるのか、期待と言ったところである。

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