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2010.03.22

『いつも心に剣を(4)』

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いつも心に剣を(4)』(十文字青/MF文庫J)を読んだ。

時間がぎゅんぎゅんかっ飛ばしていて、人間関係も激変しているあたりが実にダイナミック。まあ慌しいとも言えるが…。これは次巻でまとめるための苦肉の策なのかなあ。個人的には、3巻での劇的な離別から判断すれば、分かれている期間はもう数巻は続くと思っていたからなおさらそう思う。レーレとユユの二人は完全に共依存の関係にあったから、改めて関係を構築するのであれば、離別は必然であったともいえるが、それにしては一冊でまとめちゃったもんな。まあ一巻あたりの時間はかなり流れているけど…(少なく見積もっても一年ぐらい?)。

今回は、お互いが死んだを思い込んで、失意のうちに自分の中にあいた空洞を埋めようとする二人だけど、アプローチの仕方がまったく違うのが、それは本人の資質の問題か、あるいは性差に還元されるものなのかは…まあわからんが、もしかしたら両方かもな。レーレはすべての希望を失い、ユユを殺した(と思い込んでいる)魔女たちを殲滅するためだけに生きようとする。そのためには、自分の自由意志さえも手放して、ただ命令のままに魔女と魔王を殲滅する兵器として運用されることさえ厭わない。人間としての感情も、望みももてない、そんな空っぽの存在として生きている。これは、生きる意味のほとんどを、レーレはユユに預けていたということなので、結局、彼は誰かに生きる目的を与えてもらえないと生きることさえ出来ない空っぽの存在であるということが繰り返されている。少しは他人のことを気遣える人間に成長していたのかと思ったけど、一人になったらやっぱり駄目になった。さっき、二人が別離する時間が必要だと書いたけど、レーレにとっては、やっぱりユユがいなくては駄目なんだな。これは否定的にとらえることも出来るが…逆に言えば、彼は”自分のために生きる”と言うことが出来ないという欠落を抱えているということでもある。彼が生きるのは他人のため。他人のために生きるときだけ、レーレは自分が生きてもいいとみなすことが出来るということでもある。いびつな人格ではある。いびつではあるが…それを否定することは決して出来ないことではある。”そのように生まれついてしまった”ことはレーレのせいではない。僕は、それがレーレの「努力が足りない」とか「意思が足りない」とかは絶対に言いたくない。なぜなら”欠けているモノ”は、欠けている本人には決して分からないことなのだから。分からないから、欠けている。欠けているからわからない。”そのようにある”ことそのものを肯定するつもりは無いが、それを非難しようとは決して思わない。そのようにあることを、ただ悲しむだけだ。

ユユは、おそらくレーレの欠落をだれよりも理解していた。だから常に支配的に振る舞い、自分を守らせるように、レーレに命じていた。それがレーレがなによりも望むことだったから。ユユは自分がレーレに守られていることになによりも自覚的であったし、そんな彼を歯がゆく思っていただろうし、もしかしたら苛立ちさえ覚えていたかもしれない。彼女はなによりも”自分自身である”ことに誇りを持っていたから。自分の存在意義をすべて他人に預けているレーレの存在は、決して快いものではなかったことは想像できる。それでも彼女はレーレのことを、おそらく愛していたであろうし(それが恋人に対するものか、家族に対するものかはわからないけど)、大切に思っていたであろうことは、わかる。そして、セルジュとの関係の中、強制的にレーレと引き離されたことで、彼が必ずしも意思を持たない人形ではなく、”自分の意思でユユを守りたいと考えている”ことを知った。それに対して、ユユは何をレーレに返せば良いのかという事をようやく考え始めた(つまり対等の存在として認めようとし始めた)矢先、それをレーレに伝える間もなく、ユユはレーレと離れ離れになってしまった。ユユは、魔女のもとで、虐げられた存在の、それでも抵抗しようとする人々と行動する。しかし、彼女はその中でさえも異物であった。彼女は常に”自分自身であること”と”自分の意思で正邪と判断すること”こそを尊んでいたから。彼女は、虐げられたから、虐げた者を虐げようとする、負の連鎖に賛同することは出来ない。それは終わりの無い螺旋であるということを知っていたから。彼女は聡明であり、あるいは聡明すぎたとも言える。自分には何の力もなく、虐げられる存在であり、戦争を止めるだけの力を持たないただの子供であることを知っていた。それゆえにレーレに守られていたことを知っていた。だからこそ、彼女はなにも出来ず、ただ戦争に流されることも首肯できず、ただ傍観するしか出来なかった。

そうして、一方は空白となり、一方は無力を認識した二人は、ついに再びめぐり合うことが出来た。一年間の空白を経て、お互いを見つめ続けた二人は、おそらく、一緒にいなくてはこの世になにを訴えることも出来ない存在であった、と言うことかもしれない。この関係が正しいのかどうか、それは判断するところにはない。ただ、二人は一緒にいなくてはいけないのだと、ただそれだけを自分は思う。お互いに依存しあう。それは肯定するべきことではないのかもしれない。だが、世界は強く、おそろしく、傲慢で、理不尽であり、一人だけでは抵抗を試みることさえ叶わない。生きようとすることさえ困難だ。それに立ち向かうために、お互いを欲することに、なんの躊躇いがあるだろうか?過酷な世界をサバイブすること。それは孤独の内にある人間にはつらいこと。だが、一緒に立ち向かうことを許してくれる相手がいること、ただそれだけのことで、どれほどに安堵できることなのだろうか。二人に降りかかる理不尽は留まるところを知らないが、二人が一緒にいるということだけで、こんなにも安心できることならば、それが正しいかどうかなどと言うことは、たいした問題ではないのかもしれない。

そんなことを考えた。

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