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2010.02.08

『ストレンジボイス』

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ストレンジボイス 』(江波光則/ガガガ文庫)を読んだ。

非常に低体温な筆致で綴られる、絶望の話。絶望の中で生き延びようのもがくそれぞれの生き方を、淡々と描いている。

この作品の良いところは”何も起こらない”ってことだと思うんだ。たしかに理解不能なまでに過剰な苛めを行う少年がいる。苛められながらも他者とのつながりを欲し続ける少年がいる。他者との関係を図れない少女がいる。世界は彼女たちに優しくなく、生きることだけでも精一杯。そんな世界でサバイブしようとする少年少女たちに降りかかる試練とは!…書いてみたけど、これが何もふりかからねーんだよ。試練も。事件も。なーんも起こらん。そこには敵はなく、味方もいなく、ただ不毛な現実があるだけ。そしてそれこそが真の意味での絶望なんですね。抗おうにも、何に対して抗えばいいのかさえ分からない絶望。

遼介は自分を苛めた日々希に対して復讐を誓い、その復讐心をよすがに生きようとする。でも、これもただの方便に過ぎないんだよな。彼にとって生きる目的であり、ついに見つけ出した敵でもある。彼自身を絶望させた存在である日々希は、逆に彼の生きる希望ともなっていることが水葉の視点で語られる。彼がもし復讐を果たしたとしたら、一体何が彼に残るんだろうね?不随になった体を抱えて、警察に捕まって、それで何を果たしたことになるんだろうね?その事をうすうす気がついている遼介は、結局、バッティングセンターに逃避することになる。

でもねー、彼が敵としてすがる日々希もまた、別に悪魔でもなんでもない、ただの子供に過ぎないんだよ。狂犬のように危険な性質を持つ日々希も、”学生”と言う地位を引き剥がされればただの”馬鹿なガキ”でしかない。大人に見捨てられ、食い物にされて、ぼろぼろにされるしかないただの子供なのだ。水葉は、なすすべもなく食い尽くされる日々希を見ることになる。日々希はそれでも自分が”食われる側の存在”であることに気がつくこともなく、むさぼられるのだ。

水葉は、そうしたすべてを傍観する。絶望的な世界を見て、絶望する。なんだろうね、この誰も報われない世界は。幸福になることが許されないだけではなく、何かに抗うことさえ許されない。良いことも悪いことも起きない。彼らはただ流されるだけなのだ。自分たちを押し流すなにものかに。

水葉は、そんな世界に抗おうとはしたんだと思う。遼介を炊きつけ、日々希に復讐を果たさせようとする。何も起こらない世界で、”何かを起こそう”とした。事件を生み出し、何事かの波紋を世界に起こそうとした。それさえも世界は、日常は押し流そうとする。彼女にできるのは、それでもなにかを起こそうと、嘘をつく。観察する。自分が押し流されないように、生きる。抗い続ける。

これは、”抗う敵のいない者”が、それでも抗い続けることを選択する物語なのだと思うのだ。僕はそこにどうにもならないほどの痛ましさと悲しさを感じる。世界をこのように見ている人間は、確かにいるのだ。

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