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2010.02.22

『夏海紗音と不思議な世界(1)』

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夏海紗音と不思議な世界(1)』(直江ヒロト/富士見ファンタジア文庫)を読んだ。

なんか読んだ瞬間にジャンルを間違えたような気がした。唯我独尊なハルヒ系なヒロインがいるものの、根本的にはこれ児童文学だもんなー。それも海洋冒険小説風の。ヒロインの描き方が記号的ではないあたり、最初からライトノベルを書くつもりもないみたいだ。これはあくまでも異世界に飛んでしまった主人公が、そこで少女と出会い、一風変わった冒険に旅立つという、実に古典的かつ由緒正しい児童文学なのである。過剰なお色気もなく、友情とほのかな交流が軸になってて、なんつーかライトノベル的な割り切りが少ない(皆無ではない)。現代と同様の技術レベルながら、しかし、まだまだ冒険を行う余地を十分に残した異世界と言うのがなかなか楽しい。個人的には主人公が異世界を訪れた際の強烈な違和感と言うか異界感はきちんと評価をしておきたいところだ。”ここではないどこか”に飛ばされてしまった、と言うファンタジーがきちんと描写されている。なんか子供のときに読んだ本っていうのはこういう感じだったような気がするよ。

冒険についても、主人公には特別な力はなくて、あくまでも平凡な少年が、その器を越えないレベルでの冒険と言うあたりも実に児童文学。ちゃんと少年が勇気と機知(…は、あまりなかったような気もするが)で乗り切れる範囲での冒険なんですよね。そのあたりも大変心地よかったと思います。ラストもきちんと行きて帰りし物語になっているし、ヒロインとの一瞬の交錯も、ほんのわずかな幻のような冒険と言う余韻を残しているに、悪くないかなと。

ただ問題は、これ一巻と書いてあることなんだよなー。これで何を続けるつもりなんだよ…。ラノベのお約束とは言え、これで続編を書いたらどう考えても蛇足だと思うんだが…。まあ、どうなるかわからんし、様子を見るかな…。

と言うわけで、この話はまったくライトノベルではないので、読もうと思った方はご注意を。美少女とのラブコメとかオレつえーバトルとかハッタリに満ちたガジェットとかは無いんで。昔、児童文学を腐るほど読んだ人が懐かしむ感じで読むといいんじゃないかな。

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コメント

>この話はまったくライトノベルではないので、読もうと思った方はご注意を。美少女とのラブコメとかオレつえーバトルとかハッタリに満ちたガジェットとかは無いんで。

前から感じていたんですけど、管理人さんは萌えとか最強バトルとかがあるライトノベルと、それ以外のライトノベルを区別してますね。

例えばロードス島戦記などは、管理人さんの基準でいくと“ライトノベルではない”という分類になるんでしょうか?

いわゆる00年代作品以前のラノベと以後のラノベでは決定的な違いがある作品が多いと。

キャラの記号化って言葉もよく使われますが、○○系といったキャラの分類は古い作品でもできると思います。昔はツンデレとか萌えとかって言葉がなかっただけで。

昔のラノベも今のラノベも基本的にはファンタジーで同じだと思うんですが。

投稿: 暗黒 | 2010.02.23 19:28

ここで言う「ラノベ」と言うのはいわゆる自分の中にある「オレがスタンダードだと思うラノベ」であるので、異論は出てくるかもしれませんが、まあ確かに区別はしていますね。少なくともこの作品では「キャラ萌え」はなく「バトル」もなく「ラブコメ」もないという意味合いで、「いわゆるラノベ」ではないという意味合いで使っています。そんなのなくてもラノベはラノベだよ!と言う意見には別に反論しません。自分の基準ですからね。

大体、ラノベと言うジャンルは実に定義が曖昧かつ混沌としているので、定義論をやるのは不毛すぎるので、やりたくないんですよね。水掛け論にしかならないので。

まあそれでもあえて言うとしたら、ロードス島戦記は「ラノベ」であり「ファンタジー」でもあると言ったところでしょうか。これは自分の中では矛盾しません。ラノベのコードもファンタジーのコードも押さえているので、どちらでもあります。

>いわゆる00年代作品以前のラノベと以後のラノベでは決定的な違いがある作品が多いと。

これはどうかな~。そもそも00年代から突然ラノベが変わったということはなく、それ以前から少しずつ方向性は模索されていたし、今も変化し続けているものだと思います。変化が止まったとき、ラノベが滅びるときでしょう。自分は00年代思想にはやや懐疑的です。ある種の思想が流行った可能性はありますけど、ラノベの傾向がそればかりになるなんてありえないですよ。現実的なじゃないと思います。

>昔のラノベも今のラノベも基本的にはファンタジーで同じだと思うんですが。

で、これなんですが、完全に定義問題ですね。ファンタジーと言う言葉をどのように使うかによって問題が変わってきます。広義の意味では、まあラノベは全部ファンタジーですよね。現実にはありえませんから(暗黒さんが果たしてどのような意味でファンタジーと言う言葉を使われているのか良く分からないんですが、広義の意味であってます?)。ただ、広義の意味のファンタジーでラノベをまとめる事にはあまり意味がないような。ラノベにはかつてSFやファンタジーが衰退していた時期に、そうした作品を発表したい作家の受け皿になっていた時期があって(上遠野浩平は自分をラノベ作家ではなくSF作家と認識していたみたいです)、そうなるとそもそもラノベと言うのはジャンルとして意味があるのか。ラノベと言う皮を被ったSFでありファンタジーでありあるいはミステリであったのかもしれないということになるわけです。もうこうなるとラノベを定義することの意味があまり無いような気がするんですよね。

だから、自分が「ラノベっぽさ」と言うときは、過去からの文脈は完全に無視して、現在の主流(と思われる)キャラクター萌えジャンルを想定しています。ただ、最近の作品を読んでいると、この概念もそろそろ修正する必要が出てくるかもしれません。すでにキャラ萌えは飽和状態になっており、今後売れるラノベ作家は、ただのキャラ萌えではなく、それにプラスアルファを持たなくては生き延びることは難しいと思います。そうしたらまた新しいラノベスタンダードが出てくるかもしれませんね。

投稿: 吉兆 | 2010.02.23 22:29

管理人さんの文章は長文でもわかりやすいなあ。ココに出入りするようになって一年以上経つのに、なかなかコメントがうまくならない(反省)。

“現在の主流”である“キャラクター萌えジャンル”を「ラノベっぽさ」と表現してると。

00年代思想については言葉は知ってるんですけど、内実はよくわかりません。シャナとかハルヒを指してるとは思うんですが。

以前どっかでコメントしたと思うんですが、私はフォーチュンとかロードス島みたいな80年代か90年代?から続いてる古いラノベから入りました。最新の流行とかに全然気を払ってなかったんですよね。アニメで突然シャナを知って、管理人さん言うところの“キャラクター萌えジャンル”を読み始めたので。05年か06年ぐらいだったかな。ツンデレって言葉も、萌えって言葉も最初聞いたときは意味がわからなかった。

シャナやハルヒが誕生した当時、衝撃みたいなものがあったんですか?

投稿: 暗黒 | 2010.02.23 23:04

すいませんだらだらと長くて。どうも考えながら書いていると長くなってしまう…。本当はもうちょっとコンパクトにまとめたいんですけどね。

>“現在の主流”である“キャラクター萌えジャンル”を「ラノベっぽさ」と表現してると。

そうですね。あまり厳密な意味合いでは使っていないです。あくまでもそういうニュアンスで捉えていただければ。このあたりは、ちょっと反省するところで誤解を招く可能性を考えるとあまり使わない方が良いのかも…。

>シャナやハルヒが誕生した当時、衝撃みたいなものがあったんですか?

いやー残念ながら自分はキャラ萌え文化からは完全に取り残されているラノベ読みとしては時代遅れの遺物なんで、シャナとか実は良く分かりません。あれ、本当に何がうけたんだろう?自分にはまったく理解できなかったという意味では確かに衝撃でした。

ハルヒですけど、これは完全にSFとして読んでいたので、キャラ萌え小説として人気が出てきたときはびっくりしました。ハルヒに萌える要素なんてあったんだ…みたいな(脱線しますが、谷川流作品としては、ハルヒよりも電撃の『学校へ行こう』シリーズの方が好きなんです。こっちの方が作者の本質が良く出ていると思うんですよね)。

ただ、いつごろからキャラクター萌え作品が出てきたのかについては、実はあまりはっきり言えないような気もするんですよね。オタクはロードス島戦記の頃からキャラ萌えをしていましたし。ディードリットなんて、一時期はオタクのアイドルでした(今もかな?)。アルスラーン戦記もナルサスやダリューンの人気は凄まじかったし、ラノベが成立し始めたスレイヤーズの時代には、完全にキャラ萌えが確立していた印象があります。

たぶん、ラノベ出版社が明確にキャラクター商法を始めた時期と言うのはあると思うんですが、あれはギャルゲーやエロゲーとの関わりが強くあると思うんですよね。あちらの文化を取り込んだ瞬間と言うのがあると思うんですが…うーん、ちょっと記憶が曖昧です。

時間があればそのうち調べてみたい気もします。

投稿: 吉兆 | 2010.02.24 00:10

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