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2010.01.07

『すべての愛がゆるされる島』読了

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すべての愛がゆるされる島』(杉井光/メディアワークス文庫)読了。

ラノベのようでラノベじゃない、ようにみえてやっぱりラノベっぽい。杉井光の素晴らしい空気読みっぷりで、メディアワークス文庫が当初求めている作品に見事に合致しているのではあるまいか。(いや、オレの妄想だけどな)。このラノベと文学の中間小説ぶりを読むにつけ、まったく杉井光は器用な作家よな、と思った。普通に萌え萌えした作品を書くと思えば(個人的な見解だが杉井光が萌えに走るとすごくつまらないのでやめて欲しい)、こんな超ナイーブ(…っぽく見える)作品も書いてしまう。…優等生すぎて逆につまりませんな。お前にはポリシーとか、こだわりとかないんか!何を書いても「ああ、入間人間だなあ…」とついうっかり生暖かい目で見てしまう入間人間の爪の垢でも煎じてだな、もっと尖がったものを書けばいいと思うよ。嘘だけど。

はい、嘘でーす。僕はそんなこだわりとかくだらねえと思っていて、とりあえずいろいろな作品を幅広く書くのならそれはそれでいいんじゃないかと思うよ。今作みたく、非常に器用に読者を楽しませてくる杉井光はさすがだと思いました。文学っぽく物語が始まり、徹頭徹尾、まるで村上春樹リスペクトなの?と思わせるポップなわりに情念の深い話を進めていて面白いなーと思ったら…あーこれはネタバレなんで言えないや。自分は基本的にネタバレ上等ではあるんですが、このネタを割っては致命的過ぎる。まあ一つ言える事は、杉井光はやっぱり杉井光だったね、と。文学文学と始めながらもきちんとエンタメ要素も拾い上げているところがまったく器用と言うしかありませんね。最後まで読み終えたあと、もう一度最初から読み直してみると、物語の形がまったく変わってしまうことに驚かされます。なにしろ全部ちゃんと書いてありますからね。何一つ作者は嘘をついていないけれども(わかりにくくはしているけれども)、読者が勝手に読み間違えてしまう。きちんとミステリーだなー。

とは言え、エンタメをしつつも、やっぱりこれは家族の物語であり、愛についての物語である。愛することの不自由さ、呪いのような厭わしさ、それでも愛さずには入られない苦しさを描いている。愛はやっぱり憎しみと似ていて、同じように連鎖して多くの人間の心を縛り続けていく。父の姉の弟の、愛してはいけない相手との愛は、否応なしにお互いを傷つけ縛りつける。そうやってもつれにもつれた泥沼を、しかし杉井光は風穴をあける。あける手段は物語。人は物語を通じて言葉を紡ぎ、物語を通じて祈りを届ける。正しく物語が伝わったとき、愛の螺旋は終止符を打たれる。憎しみのように愛し愛され愛し返し、お互いを分かちがたく縛り付けてしまった愛を、最後の最後に物語の力で切り離す。このあたりに、杉井光のエンタメ作家としての資質が現れているように思うのだった。このあたりは良し悪しの話ではなく、そのように物語を紡いでしまう作家なのだ、と言うこと。それは作家としてのある種の限界かもしれないけど、それでも救いをもたらしたいと言う作者の意思は、共感を覚えないでもない。

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「他に数字を持たない素数は、孤独な数字です」 「他のすべての偶数は、最初の偶数であり、最初の素数である2が存在するために、定義から孤... [続きを読む]

受信: 2010.01.21 02:52

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