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2010.01.27

『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん(9)始まりの未来は終わり』

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嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん(9)始まりの未来は終わり』(入間人間/電撃文庫)を読んだ。

えーとこれは非常に単純な話です。物語の内容は一言で説明できます。あとは蛇足。なのでその一言ですむ内容に共感できるかどうかがおそらくこの作品の評価の分水嶺になるのではないでしょうか。正直、自分には、その、少々苦しい…。いやー高校生ぐらいのころだったら素直に共感出来たと思うんですが、さすがに今の自分には共感と言うか肯定は出来ないよなあ。

で、単純極まりないものとは何か?と言う話ですが…えー、まー…本当にたいしたことじゃないんです。ないんですが、それでもわりと陥りがちなもの。…これ、一冊まるごと”みーくん”の「現実逃避」の話なんですよ。なんだかさっぱりわからんが突然現れた殺人鬼が”みーくん”の現実を粉砕しようとしてくるんですが(この殺人鬼がマジでわけが分かりません。まあ現実はいつだって理不尽なものなので、そういうものだと思っておくべきでしょう)、ところが”みーくん”はさっぱりその現実に向き合ってくれないんですよ。

自分自身の感情からさえ逃避して、ひたすらそれまで通りの夢想の中に耽溺しようとする。悪い言い方をすると、”みーくん”のやっていることと言うのはそれなんです。まあ彼はもともと「嘘だけど」と言う口癖からも分かるように現実を徹底して拒否しているキャラなので、その意味ではブレは全然ないんですが、それにしたって限度と言うものがあるだろう、と。

まあ作者としてはわりと自分のような反応は予想しているんじゃないかな。ただ、それでも現実と向き合うということは、これほどまでに困難で苦しく感じるものなのだ、と言うことをあえて表現しているのだろうと思う。自分でも良く分かるんですが、現実と向き合うのって本当にきついんですよ。駄目な自分、不都合な現実、やさしくない世界と向き合うと言うのは、自分のような虚構の方が親しく感じる人間にとってはマジできついんです。そう言う、いわゆる夢想に生きてきた”みーくん”(そもそも”みーくん”と言う存在そのものが虚構だ)が現実に向き合うためには、”彼女の死”と、それ以降の犠牲者と、延々と繰り出される虚構の言葉を撒き散らすことが必要だった。そのへんは分かるんですが…まあ肯定してはいけないよね。むしろこれは否定されるべき物語として描かれているというところもあるのではないかと思う。

例えば、結局、現実ってのは絶対に消えないから現実なので、幻想は何一つ事態を好転させることなく、最悪の状況に陥ったところでようやく”みーくん”は現実と向き合うことを決意したところなんて、完全に虚構の敗北を描いているとしか思えない。なんかこういうところが本当に悪趣味としか思えないんですが(露悪的と言うか…)、こういう後ろ向きな反面教師的にしか物事を語れないというのもこのシリーズらしいなあ、と思わなくも無いです。

でも、本当に作者としてはこれでいいのかなあ。自分の作品を反面教師的にしか語らないというのは、ちょっと作品としてどうかと思うんだけど…。まあ現実と向き合った”みーくん”がどんな結論を出すのか分からないので、作品のテーマ的な部分はまだ分からないか。幻想に生きてきた自分を否定するのか肯定するのか、それだけで物語の骨格が反転する。そのあたりの作者の決断を楽しみにしておこうと思います。

しかし、読んでいるときは「”みーくん”はマジで駄目だな…、全然理解できねー」とか思っていたんですが、感想を書いてみたらけっこう共感していた自分に気がつきました。現実に向き合うことの恐怖感、嫌悪感とか、あのへんはやっぱり自分も経験あるからかなー。近親憎悪的なものもあったのかも。まあ肯定はやっぱり出来ないんですが。

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コメント

流し読みですが、これ、読了しました。
あの殺人鬼は警察から出てきたアレとかかなと思ったんですが、違うんですね。総括みたいなことしたいのかと思ってたんですが。

感想評なんかを巡ってみると、割ともう『共感』的な読みをしてない人も多いのが一つというのと、このキャラだからこうなってほしい、という読み方があるんだなあってことでしょうか。初期の戯言読者の傾向で言われてたように、『他のラノベ読者とは違う物を読んでる』感を出してる部分もあるのかなと最初は思ってたんですが、最近だとキャラとその要素に萌える部分を見出して読むというような読みも結構あるのではと。
ただ今回、戯言シリーズだと山風かくやの展開で力押ししてた「ネコソギ」に当たるパートなんだとは思いますが、まあ個人的には疑問符でしたね(笑)

>例えば、結局、現実ってのは絶対に消えないから現実なので
>幻想は何一つ事態を好転させることなく、最悪の状況に陥ったところでようやく”みーくん”は現実と向き合うことを決意した
>反面教師的
この辺りは、これまで読んできた作品から見ると意識してやってるのかどうかは少し疑わしい部分があるかなと思ってます。
西尾維新はともかく、露骨に舞城王太郎や佐藤友哉を思い出す部分は散見しますが、あのメフィスト作家達なら狙ってる構成なんだろうなと解るような展開でも、最後まで読んでいると案外そうでもないのか、というような終わり方をする作品が結構あったので。ライトノベルという制約があるからかもしれませんが、案外、天然でこうなってるんじゃと思うこともしばしばでした。
テーマで見ると、このまま「嘘」と繰り返してきた他人と自分との関係にどう決着を付けるかだとは思いますが、このまま「ハッピーエンドへ」だけだと、流石に投げっ放しジャーマン的な気はします(笑)今回の後半だけでそれが処理できてるとは思えませんし……。仰られるように最終巻待ちですね。
そういえば、作者は二月の早稲田文学増刊にも短編(掌編?)を寄稿してるみたいです。

投稿: | 2010.01.28 15:23

追記申し訳ありません。

今回の作品を読んで思ったのですが、度々最近のフィクションでテーマにされる「狂気」と、「狂ってしまえばラクになる」といった題材は、いつくらいから出てきたのかなと少し興味深く思いました。世界に向き合う感情の抵抗力の話というか、具体的にどれ、と作品を挙げられない読書量で申し訳ありませんが、こういった傾向はあるのかなと。

投稿: | 2010.01.28 19:06

>この辺りは、これまで読んできた作品から見ると意識してやってるのかどうかは少し疑わしい部分があるかなと思ってます。

いやさすがにこれ全部天然と言うのはないんじゃないですかw。ここまで徹底して後ろ向きな作り方をしているのだから、そのやり方が上手くいっているかどうかはともかく、作者が意識をしていないとは思えないですよ。逆に天然でこの9巻を書いたとしたらそれはすごい事のような気もします。

徹底して現実から逃避していた主人公がどのような結論をつけるのか、そのあたりがはっきりすれば作者の意図も読めるんじゃないでしょうか。この時点ではまだなんとも判断出来ませんね。

>「狂気」と、「狂ってしまえばラクになる」といった題材は、いつくらいから出てきたのかなと

どのあたりに注目しているのかにもよりますが、「狂気」についてはラノベ以前にいろいろな作品で言及されているので、最近になって増えてきたというものでもないんじゃないでしょうか。ラノベに影響を与え始めたのはおそらく西尾維新を初めとする初期メフィスト賞作家の影響が大きいかもしれませんけど。うーん、ちょっと範囲が広すぎて見極めきれないですね。

投稿: 吉兆 | 2010.01.29 00:07

流石に穿ち過ぎでしたでしょうかw
シリーズではこれだけ読んできてはみたのですが、可読性の難のせいか、未だに構成に拙い印象を受けてしまうので、そんな印象が先行しているせいかもしれません。

>狂気
西尾維新辺りは読んでいるのですが、近年の傾向は西尾維新が戯言シリーズを書いていた頃よりも露骨になっているような気がしたので。漫画などでも偶に見るのですが、いかんせん漫画はラノベよりも更に読書数が少なく、カバーし切れていません(苦笑)
西尾維新の場合は、最近では化物語の印象が強いからかもしれませんが、内省的なところで足踏みして留まるイメージがなかったので、感情に折り合いを付ける為に狂うという作品を書いていたというイメージはあまりないですね。今回のを読んでいて、頻繁に佐藤友哉を思い出したのはそのせいかもしれません(笑)

お返事ありがとうございました。
こちら、完結したらまた手に取ってみようと思います。

投稿: | 2010.01.29 00:23

これで何事もなかったようにハッピーエンドだったりした日には引っくり返りますけどね。まったく可能性がないわけでもないのが恐ろしいところ。

佐藤友哉は、言われてみればなるほどと言う感じもしますけど、佐藤友哉の方はたぶん天然で書いている(少なくとも初期は)と思います。入間人間の方がたぶんに意識的に作っているんじゃないかなー。簡単に言えば、佐藤友哉には(作者本人に対する)狂気を感じますが、入間人間にはそれほどの狂気を感じません。わりと理性的に物語を紡いでいる感じです。

投稿: 吉兆 | 2010.01.29 21:39

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