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2009.12.28

『月見月理解の探偵殺人』読了

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月見月理解の探偵殺人』(明月千里/GA文庫)読了。

大変面白かった。初期の西尾維新を思い起こさせる、切羽詰って閉塞感に満ちた暗闇の青春物語として実に良く出来ている作品。ミステリ風味というかコンゲーム的な要素があるけど、そのあたりはあまりメインではないみたいですね。自分はあまりミステリ的な素養がないせいでもあるけど、ガチガチに論理的に物語を進めていくという感じではなくて、けっこうアバウトな扱いをしている。ただ、ゲームの要素は主人公と理解の間のやりとりの緊迫感を高める効果もあるし、なにより、この世は騙しあいで成り立っている、と言う作品世界を象徴しており、物語的には大きな意味があるように思う。

主人公はひたすらに嘘をつく。大切な人を、大事な世界を守るために多くの嘘をつく。彼が守りたいと思った相手も嘘をつく。彼に関わる誰もが嘘をついており、彼を取り巻く世界は嘘によって成り立っている。嘘によって構築された世界は不安定で歪つで殺伐としていて人を傷つける世界なのだが、しかし、主人公にとって大切な世界はすでに嘘なくしては成り立たないものになっている。だけど、嘘と言うのは諸刃の剣なのだよね。嘘をつけばその場は取り繕えるかもしれない。短期的には最大の幸福さえ獲得できるかもしれない。

けれども、嘘と言うのは必ず破綻するのだ。必ず。例外なく。確実に。嘘によって繕われた世界は、必ず崩壊する。そしてその崩壊を先延ばしにするためにさらに嘘をつかなくてはならない。それは崩壊を先延ばしにしているだけではない。より高く積み上げられた楼閣は、高ければ高いほどに崩壊したときに多くのものを巻き込むことになるのである。

月見月理解は嘘を嫌う。むしろ憎んでいると言ってもよい。自分自身が高度な嘘つきでありながら、嘘によって取り繕われる世界を憎悪している。彼女はあらゆる嘘を破壊する。言葉で、態度で、その眼差しであらゆる嘘を破壊する。嘘を破壊された世界は、多くの人を巻き込み、傷つける。理解は、躊躇いもなく嘘を粉砕して、多くの人を傷つけていく。だけれども、それは彼女は残酷だからではない。嘘によって繕われた世界の歪みを知るからこそ、彼女は嘘を打ち砕くのだ。傲慢に、不敵に、嘲笑いながら。

しかし、彼女は最後の最後に嘘をついた。それは小さな、とても小さな、けれども優しい嘘。嘘はいつかは必ず破綻する。けれども、真実もまた残酷で人を傷つけるもの。嘘は真実を受け入れるまで人を支える杖でもあるのだ。その嘘をついたことは、理解の本質的な優しさであろうと思う。少なくとも、彼女は真実の重さを知っているのだ。

それゆえに、この作品は残酷で無残でありながら、どこか優しい物語である。それは月見月理解が持つ矛盾した人物像がもたらしているものだと思うのだった。

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