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2009.12.08

『コトノハ遣いは囁かない』読了

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コトノハ遣いは囁かない』(木村航/MF文庫J)読了。

これは評価がすごく難しいです。まあ木村航にライトノベルを期待するのが間違っているんだろうけど、物語の要素はすごく学園異能らしいガジェットを使用しているので、どうしてもそちらに目が向いてしまう。そして、学園異能を期待しているとそちらの方には行かないので、おそらく読み手にはそれ相応のストレスがかかるでしょう。少なくとも”魔女”の然葉(さらば)による退魔物、と言う形にはなかなかなりません。自分も当初は木村航がどういう方向に物語を持っていくのかわからず、半分くらいまで読むまで戸惑ってしまいました。

ただ、沼岸先輩のエピソードの辺りから少しずつ解釈が出来るようになってきました。これは人間の”情念”を巡る話ですね。良きにつけ悪しきにつけ、人間の情念と言うものはものすごい力を持っている。愛、友情、憎悪、嫉妬、嫌悪、人間の持つありとあらゆる情念、それはもはや業と言っても良いものだと思いますが、そういった情念に支配された人々の事を、この作品においては”ナイトメア”にとり憑かれると表現している。ナイトメアとは、作中では魔女が対抗するべき存在と言うように最初は説明されておりますけど、実のところこれは滅ぼすものではないと言うことが物語の中で語られています。もちろん最初は単純な退魔物の体裁をとっていて、負の感情を抱え込むことによってナイトメアに支配された人々を浄化するという展開なんですが、先ほども述べた沼岸先輩のエピソードのあたりから、だんだんナイトメアの持つ、人間の業そのものについてクローズアップしていくことになります。ここで一つの逆転現象が起こるわけです。つまり”善良な心にさえナイトメアはとり憑く”のだと言うことです。人間の情念とは、単に負の感情とは限りません。優しさ、好奇心と言った前向きな感情さえも情念になりえるのです。これもまた先ほど書きました、人間にまつわるあらゆることを指し示すという意味で、”業”と言う表現が正しいものになるのでしょう。

善人さえも、悪意など欠片も持たない人間さえもナイトメアにとり憑かれる。そのような事態に陥ったことで、主人公たちの活動はその意味を変える必要に迫られるわけです。人間の情念をむやみに否定するのではなく、受け入れること。善良な心も、負の感情も、それらすべてをひっくるめたものが人間であるということを、です。しかし、それを認めることは出来ても、受け入れることが出来るかどうかと言うのは別の問題です。どんなに善意に満ちた行動をしても、お互いの意思疎通にすれ違いがあれば、それは恐るべき惨事を引き起こすことになりかねません。好意が、実は人間を破滅させることさえあるのです。作中では、ある一人の人間の持っていた”利己愛”が、主人公たちに致命的な出来事をもたらそうとしていました。

しかし、すべてが破滅していく予感を漂わせたその瞬間に訪れたのは、まさしく”愛”によってもたらされた”ナイトメア”。それがすべての問題を解きほぐしてくれます。もつれ合い、すれ違い、誤解のあった関係を正しく並べなおします。人はすべての愛をもって根気強く接することによって、相手の独善愛に陥ってしまった彼女の心の内にある本当の気持ちを探り出すことが出来るのです。

はたしてこれをどう表現したらいいのでしょう?確かに異能です。バトルと言うか”祓い”のシーンもあります。でもそれは本質じゃありませんよね。あくまでもガジェットです。本来はもっと簡単なものです。例えば沼岸先輩に真弥が語りかけた言葉、それこそが本当の魔法だったのだろうと思います。決して諦めずに手を延ばし続けること、相手の悪い面をひっくるめて受け入れること、それこそが。

この作品において、魔女の力は確かに存在しています。しかし、魔女の力はモラトリアムの時にしか最盛期のピークを維持できないという設定から、思春期における他者との拒絶を意味する”セカイ”を意味しているように思えます。この作品内で、もっとも救われるべき存在は、ナイトメアに取り付かれた人々ではなく、おそらくこの小さな魔女さんでしょうね。そのことに気がついた主人公の結貴は、魔女の然葉を常に気に掛けていたけれども、その奥まで踏み込むことは出来きませんでした。おそらく続巻があるのならば、小さな魔女さんの孤独とを癒す物語が必要になるのだろうと思います。なぜなら人間にはすべからく”業”があり、業を元にナイトメアをもたらすのならば、ナイトメアとは共存をして行く必要があるからです。そのことについては、結局、今作のラストで方向性が示されていますね。すでにナイトメアは一方的に退治する存在ではなくなっています。それに対して魔女は共存を受け入れることが出来るのかどうか。結貴は彼女の心を拒絶の闇から解き放つことが出来るのでしょうか。

必要なのは、おそらくは”愛”(恥ずかしいですね。でもこの作者の描く作品は基本的にど真ん中の剛速球なので、読み手としても恥ずかしがっていては対抗できません)。生み出される情念を拒否するのではなく、受け入れること。それこそが愛なのだろうと思います。男女の愛ではなく、もっと大きなものへの愛を志向しているのではないかな。この物語はその意味で、少年少女たちの大人への階段を上っていく過程を描いた作品なのかもしれません。

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コメント

これって続きってでないですか?

投稿: | 2009.12.14 00:32

自分は出版業界とはツテがあるわけではないのでわかりません。まあアマゾンのランキングを見る限りでは相当に売れてないようなので、今までのパターンを踏まえるのなら2巻が出て完結と言うところでしょうか。個人的には残念ですが。

投稿: 吉兆 | 2009.12.14 09:59

やっぱり!!  
そうだったんだ

投稿: | 2009.12.18 18:10

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