『ばけてろ 成仏って、したほうがいいですよね?』読了
『ばけてろ 成仏って、したほうがいいですよね?』(十文字青/角川スニーカー文庫)読了。
事前の情報を小耳に挟んだところでは、十文字青らしからぬ萌えとコメディに塗れた作品と言う印象だったが、読んでみればこれが全然いつもの十文字青だった。まあちょっと大衆向けに手加減している感じもするので、普通のライトノベル読者に対するアピール的な面ではそれなりに意味があるのかもしれないが、正直、ここまでして読者に媚を売るのも大変そうな気もする。素直にラノベから離れた方が作者も楽に慣れるんじゃないかと思うのだが(どう考えても一般ラノベ読者向けの作品を書いてないだろう)、これまで積み上げてきたものを考えると、ラノベ以外でどういう立ち位置に立てるのかわからないからなあ。そうそうは難しいのかもしれない。まあラノベはわりとジャンル意識が曖昧なところがあるので、そのあたりが生き残る道なのかなあ。
話が逸れました。このばけてろについては、いわゆる学園異能と呼ばれるジャンルを注意深くなぞっているように思える。ちょっとほわほわとした千夜子と、奇人と言うか変人なその友達メルカ、そして彼女らが巻き込まれる奇怪な事件と、それを解決するヒーロー役の景敦。もうベタベタだね(ベタすぎてこういう作品を十文字青が書く必要性があるのかさっぱりわからない)。もっともベタはベタながらも、ヒーロー役の少年が普通にむっつりスケベの引きこもりだったり、主人公のほわほわぶりが天然と言うにもやべえレベルに達していたり、ちょこちょこと逸脱しているところも無いではない。ただ、この作品の主要な視点人物は、おそらく、奇人と言うか変人な(はず)のメルカなのだろうと思われる。強い霊感を持つ千夜子のように怪異に直接関われず、景敦のようにそれに立ち向かう術も持たない、変わってはいるが、どこまでも平凡さに甘んじなくてはいけない彼女のコンプレックスがこの作品を駆動させている。千夜子が事件のトリガーであり、その事件に関われないメルカが葛藤する、と言う形が出来上がっているので、連載作品としての構造はしっかりしていると思うのだった。
また怪異を解決するだけじゃなくて、景敦を中心としたラブコメっぽいところも作っているので、作品としてもフックは多く、さらりと読むのにはぴったりの喉ごしと言う感じで、十文字青作品の中ではトップクラスにラノベっぽい。それについての良し悪しについては意見の分かれるところだろうが、ちょっと楽しむには十分すぎる作品なのではあるまいか。
まあ何度も書くけど、別に十文字青がわざわざ書かなくてもいい作品だと思うけどね。
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