『君が僕を どうして空は青いの?』読了
『君が僕を どうして空は青いの?』(中里十/ガガガ文庫)読了。
これはすごい。
平凡な中学生、淳子の学校に転校してきた商店街の神様、”恵まれさん”である真名。淳子は彼女と出会い、そして強烈に惹かれていく。それまで経験したことの無い感情に戸惑う淳子だったが、自分の感情に翻弄されながらも真名との距離を縮めていく、と言うのが基本的なストーリー。もっとも”恵まれさん”は神様と言っても超自然的な存在ではなく、言うなれば一種の巫女のようなものだと考えればわかりやすい。決してお金には手を触れることが出来ない”恵まれさん”は誰かから施しを受けなければならず、施しは”物”で受け取らなければならないので、結果的に商店街が潤うわけだ。俗な言い方をすれば、商店街のキャンペーンガールのようなもの。…そのように淳子も思っていた。
淳子は真名に強烈に惹かれる反面、同時に、”恵まれさん”なんてものをやっている真名のことがどうしても理解出来ない。お金を使わないで生活する?そんな不便なことを大真面目にやっているなんてバカみたいだ。そんなの嘘に決まっている。どこかでこっそりとお金を使っているに決まっているんだ。…そのように淳子は思い込んでいた。
真名の”執事”である縁から、謎めいた真名の過去を囁かれる淳子。”曖昧”な言葉を許さない真名の、奇妙な過去。”恵まれさん”になった衝撃的なきっかけ。それを囁かれ、淳子は心の中で想像をめぐらせる。真名の心中を想像する。きっと彼女は月の荒野にいるに違いない。寂しく孤独な月の荒野。誰もいない世界。惹かれる相手だからこそ、その心中を理解したい、その”本当”を知りたいという焦燥感。…淳子はそれに耐えられなかった。
思い込みと焦燥に突き動かされて、淳子は真名の領域に足を踏み込む。真名の心中を暴きたいという欲望に流されて、淳子はその言葉を紡ぎだす。「どうして空は青いの?」
言葉の正しさのみ従う真名は、正しく言葉を返す。「君が僕を」
おそらく淳子は”届いた”のだと思ったろう。月の荒野におわす姫の御許へ。そばにあることを許されたのだと。孤独な彼女を癒す存在になったのだと。これで終わればすべては万歳。めでたしめでたし。淳子の思いはつながり、彼女は正しく、そして報われる。
ところが、そんな彼女に冷や水をぶっ掛けるその言葉。NGワード1。くずし文字で書かれたその”恵み札”。それが淳子の傲慢を暴き立てる。
結局、淳子が惹かれていたのは、彼女が勝手に妄想していた真名であった。正確には、惹かれたゆえに、”こうであろう”と思い込んだ真名でしかなかった。真名は淳子が思うような、そんな都合のいい存在ではなかった。真名はもっと透徹していた。完全に自分の人生を見つめていた。自分の在り方を受け入れていた。”かわいそうな自分”などに酔っていなかった。すべてはそうであろうと思っていた淳子の願望に過ぎなかった。
それを思い知らされたとき、淳子に出来ることは、羞恥のあまり逃げ出すしかなかったのである。
37歳になった淳子はかつての自分を振り返り、自分の失敗を思い返す。「どうして空は青いの?」それは現実を生きる人の数だけ答えがある。答えのために人が生きているのでは断じてないのだ。
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