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2009.09.04

『アップルジャック』読了

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アップルジャック』(小竹清彦/幻狼ファンタジアノベルス)読了。

主人公が心優しき殺人鬼(殺し屋じゃなくて)と言うあたりにTYPE-MOONの匂いがしてくるのだが、さらにその殺人鬼の元に少女がやってきて共同生活を始めると言う展開に至ってはどこのレオンよ、と思ってしまうのだが、この作品の非凡なところは、この殺人鬼は酒をこよなく愛し、とあるバーで、気の置けない友人と共に一時を過ごすというその空間の描き方がとても洒脱であると言うところだろう。決して殺人鬼と少女の世界に閉じていくのではなく、お洒落で粋なバーの雰囲気が物語に開放感を与えてくれるのだ。また、これは物語早々にわかることだし、さらに口絵の人物紹介でもばらしているので書いちゃうのだが、殺人鬼が通うバーには、美しき復讐鬼と、陽気な殺し屋が集い、お互いの素性を知らぬままに、酒を酌み交わし、友情を深めていく過程が非常に面白かった。

酒に良い、語り合い、今日の友情と未来の絆のために酌み交わす。そんな雰囲気が非常に美しくも楽しげで、いわゆる”伝奇”的な要素とはかけ離れたものがあるのだった。要素としては伝奇としか言いようのない登場人物であり、当然のようにバトル要素もあるのだが、しかし、バーにおける常連たちの空気はどこまでも陽気で親しげだ。少女もまた(酒は飲まないが)その空間に参加することになり、家族的な空間が構築されていく。殺人鬼と復讐鬼と殺し屋の、奇妙な宴は続いていく。その空間は少女の抱える物語を解決するために動き始め、少女を中心に構築されていく奇妙な仲間たちは、少女を助けるために戦いを始める。

少女を取り巻く、愛すべき”怪物”たち。決して表舞台に立つ事の無い、薄暗い欲望を抱えた彼らは、しかし、奇妙なまでに朗らかだ。自分たちは外道であることを知りながら、それを受け入れて生きることに後悔も躊躇いも後ろめたささえ感じることは無い。外道であり怪物である自分たちを受け入れ、その上で生きることの喜びを謳歌する。怪物たちの饗宴は、なによりも愛情深く少女を包んでいくのだ。

陽気な怪物たちに祝福あれ。自らの欲望に塗れながらも世界と折り合いを付けていく彼らの姿は、どこまでも楽しげだ。願わくば、彼らの空間が少しでも長く続いていく事を願わずにはいられない。ポップでキュートでマッドでクレイジーな彼らの愛情深い物語を紡ぐこの作品は、決してめでたしめでたしでは終わらないものの、どこか心に暖かいものを残していく。これはそんな作品であると思うのだった。

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コメント

大好きな小説にこんな素敵な感想を書いている人がいて、なんか嬉しかったです。

投稿: | 2011.02.17 19:00

こちらこそコメントありがとうございます。

投稿: 吉兆 | 2011.02.21 23:06

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