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2009.09.28

『純潔ブルースプリング』読了

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純潔ブルースプリング』(十文字青/角川書店)読了。

十文字青の幻の受賞作が満を持して刊行。作者の処女作なのにここまで刊行が伸びてしまったのは、まあ一読すれば明らかではあるな…。全然ライトノベルじゃねえんだもん。学園小説大賞でもこれを出版するのは冒険だったろうな。と言うか、もしこの作品でデビューしていたら十文字青の作家としての方向性もまったく変わっていたかもしれない。どっちかと言うと滝本竜彦的なえぐりこむような青春文学の方向性に入っていた可能性もあるような気がする。本当に、このタイプの作品で受賞しておきながら『薔薇のマリア』を書かせた編集部は慧眼だったのか無謀だったのか…。個人的にはよく薔薇のマリアを書かせたものだと感心してしまったよ。

とは言え、この作品には十文字青のすべてがつまっていると言っても過言ではない。十文字青的な芯はまったくぶれていないようだ。この作品を読んでいると、たしかにそこには『薔薇のマリア』のような自己に対する無力感とその克服があり、『ぷるりん。』『ぷりるん。』のような世界に対する不条理に打ちひしがれるところがあり、『ANGEL + DIVE』のように奇矯な登場人物が織り成す物語がある。今作のそこかしこに後の作品の萌芽があるのだ。まさしくこの作品は十文字青の原点と言えるのだろう。

この作品は、明言はされていないが終末の物語である。いつか世界が終わることが決定された世界。だが十文字青の興味深いところは、いわゆるセカイ系とも思われる設定を置きながら、それに拘泥しない。”世界が終わること”そのものは、たいした問題ではないのだ。世界が終わる。いつかはすべて消えてなくなる。怒りも哀しみも友情も恋も。すべてははかなく消える定めだ。ならば、終わることが決定された世界では、怒りも哀しみも友情も恋も意味をなさないのであろうか、と言う問いかけがそこにはある。

世界が終わるその時まで。彼らは笑って恋をして生きていく。すべてがなくなるとしても、なくなるその瞬間まで日常を積み上げていく。しかし、十文字青はことさらに世界の終りを強調したりはしない。”なぜならそれは当たり前のことだからだ”。世界と言うものを個人に収斂させるのならば、世界と言うものはいつ終わってもおかしくは無い。だがそれを嘆くことで何が得られよう?それを人生の一大事だとわめくことでなんの意味があるだろう?そこには世界を救うヒーローはいなければ、世界を斜に構えるニヒリストもいない。ただ、いつか終わる世界の中で、当たり前に苦しみ、理不尽に怒り、困難に立ち向かう姿があるだけだ。

それこそが世界の終りに立ち向かう唯一の手段であり希望なのだ、と思うのだった。

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コメント

つ ぷりるん。

投稿: | 2009.09.29 23:26

修正しました。

投稿: 吉兆 | 2009.09.29 23:58

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