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2009.09.25

『臓物大展覧会』読了

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臓物大展覧会』(小林泰三/角川ホラー文庫)読了。

タイトルのそぐわぬドログチャスプラッタホラー…に思わせておいて、実のところハードSFの要素を多分に含んだSFホラーに仕上がっているのはさすが小林泰三と言ったところか。恐怖をテーマにしておきながら論理的と言う奇妙な作風は相変わらずだよな。9編の物語が収められているのだけど、奇譚としか言いようがない不思議な作品や、徹頭徹尾グロい作品もあったり、スラップスティックとしか言いようがない(でもホラー)作品もあったり、実にバラエティ豊かである。もちろんSFマインドも存分に振るわれており、実に窓口の広い作品と言えよう。

以下各話簡易感想。

「透明女」
作中最大のグロ度を発揮する作品。透明女が主人公の周囲に暗躍し始める展開はまさにオーソドックスなホラー。途中、事件の捜査に現れる刑事たちのやりとりはユーモラスと言ってもいよいのだが、そのユーモラスな語り口さえ最後のどんでん返しにつながっているあたり、実に精密に構築されていると思われる。透明女誕生編はマジで気持ち悪くなるスプラッタぶり。さすがのオレも食事中に読んだら気持ち悪くなったぜ(食事中に読むなよ)。

「ホロ」
ホラーと言うより、人間の実存をめぐるSFの側面が強いかな。己という存在の不確かさ。魂の所在についての話。他者の存在に疑問に陥った男の行き着くところは、自己存在の否定に他ならない。まあこの手の思考実験はわりと自分もしたことがあるのであまり意外性はなかったかな。それまで信じてきた土台がぐらぐらと揺れ動いていく不安感を感じ取れるかどうかが重要。

「少女、あるいは自動人形」
これまた自分の信じている出来事がどんどん揺れ動き、現実感を喪失していく系の物語。信じたことがことごとく霞のように立ち消え、その中でも確かなものをつかもうと足掻き、つかんだところで足の下の落とし穴に落ちるという意地悪さ。基本は「ホロ」と同じ構造の作品だよな。

「攫われて」
ラストのオチは大体冒頭で予想がつくのだが、とにかく全編に漂う”悪意”の描写がすごくてむせ返りそうになる。純粋なグロ度では「透明女」には劣るが、人間が悪意をもって人間を傷つけるという描写が強烈。人間は己の欲望のためにはいくらでも残酷になれるものなのだ。途中、誘拐犯と女の子の駆け引きのシーンは、どこかジョジョを思わせるスリリングなものなのだが、”悪意”がその駆け引きを本当にグロテスクなものにしている。ラストはどこか切なく物悲しささえ感じるシーンが印象的。

「釣り人」
うん、これは一つのブラックジョークと言ってもいいんじゃないかな。途中、どう考えても文章がつながっていない箇所があって、その不自然な部分を解き明かそうと主人公たちはするのだが、解き明かされた真相は、なんと言うか本当にどうでもいい感じですよね。こんなことを明らかにしていったいどうすればいいのやら。あ、けっこうグロいかもしれないね。

「SRP」
特殊部隊SRPに所属するイノウ・ブキチは霊能力者である!彼は東京で起こるさまざまな妖怪事件に立ち向かい、先祖から伝えられた小槌の欠片を使って召喚をおこなうのだ!すなわち”カプセル妖怪”を!と言う感じの話だけどちょっと嘘。カプセル妖怪だけ本当。ともあれ妖怪退治に奔走するブキチくんなんだけど、強くなる敵についには人間新兵器と協力し、魔王山ン本太郎左衛門(山ン本五郎左衛門のもじり)を召喚し最後の戦いに向かう。その戦いの行方は!敵の正体とは!と言うところでSFに入る。地球の物質はすべて分子で出来上がっているが、実は分子というものは宇宙では圧倒的な少数派に過ぎない。科学では解明できないダークマターが大多数だ。これは分子で構成されない知性人とのファーストコンタクトものでもあるわけですね。作者頭おかしいんじゃないの。

「10番星」
クラスメイトが見つけた10番目の惑星とは。そんな宇宙への憧れから始まる凍りつくようなホラー。世界がどんどん変わっていく恐怖も去ることながら、他のあらゆる恐怖に負けて、新たなる恐怖の担い手になることで恐怖から逃れた友人の精神が不憫さを誘う。

「造られしもの」
ロボットによって人間の行うことが何もなくなった時代。家の仕事も勉強もなにもかもロボットが肩代わりしている時代。一人の男が苛立ちを抑え消えれずに苦しんでいた。この生活では、自分はロボットの奴隷に過ぎないのではないか!人間が寄って立つ基盤は存在しないのか!惑う彼のもとに同様にロボットに頼らず生活をしている女性に出会う。そこで人間の芸術こそがロボットも持ち得ない唯一の拠り所なのだという信念を得るのだった。しかし…男が安らかな眠りについた時、すべては崩れ去る。それまで男が築き上げてきたものすべてを否定しつくした最後は、物悲しさ、やるせなさと共に、信じることができたものが、本当の真実であるということ語っているように思える。それが彼本人の真実でしかなかったとしても。

「悪魔の不在証明」
もうこれホラーを書くつもりないだろ?極めて論理的な会話を繰り返し、神の存在証明について対立する主人公と神父。この主人公と神父のあり方を突き詰めるのがこの作品の根幹であろうか。つまり、人は何をもって人と呼ばれるのか。信仰によって慈愛のある人物と生きてきた神父が、信仰を失ったとしたら(彼を束縛する規律を失ったとしたら)そこには何が残るのか…。人間のプリミティブな情動の恐ろしさと言うか、人間は獣の情動を法と宗教で縛り付けているのだな、と言う話。もちろん最後に恒例のそれまでの物語をひっくり返す趣向は健在。わりとパターンなのかね、こういうの。

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コメント

SRPは読んでいて同じ作者のAΩを思い出しましたよw
造られしものなんかは星進一のショートショートみたいですし。
バラエティに富んでいて飽きない一冊ですよね。

投稿: meganegane | 2009.09.26 22:44

AΩは自分も大好きな作品ですね。ウルトラマンを科学的にありそうな理屈付けするだけならまだしもスプラッタ描写を満載なところに作者の遊び心を感じさせられます。
この作者は頭がいいなーと読むたびに思います。

投稿: 吉兆 | 2009.09.27 15:49

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