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2009.09.30

『シャギードッグ(4) 人形の鎮魂歌-reborn-』読了

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シャギードッグ(4) 人形の鎮魂歌-reborn-』(七尾あきら/GA文庫)読了。

超能力にサイボーグに超人的な武術家と、まこと七尾あきらの本領が全部つまった感じのあるシリーズとなって来た。デビュー以来、長く付き合ってきた作者だけに、原点回帰とも言えるこの作品を読んでいるだけでいい気分になる。この人はオカルトとサイバーパンクの両方が大好きで、双方を融合させたひどく変わった世界観を(初期には)構築していたのだが、4巻に入って、ようやく世界観と物語ががっちりと組み合ってきたように思う。

瀕死の重傷まで追い込まれた大介が、迫るカイとの再戦を前に苦しみ、桂翁の助けを借りて自分の本当の覚悟を見出すまでの過程がとてもエキサイティングであったな。一言で言えば、”自分を知ること”という単純な言い方が出来るけれども、その本当の自分に気がつくのに、桂翁の”無私なる愛”に触れて、覚醒するという流れが凄まじい展開だった。読んでいない人にはピンとこないかもしれないけれども、桂翁の”愛”と言うのは、単純に言えば”相手を救うために殺すことを決断できる”ほどの愛なのである。完全無欠に殺意を持って殺しにかからなければ、大介の目が覚めないと判断すれば、本当に殺すことに躊躇いのないほどの愛なのである。勿論、本当に殺してしまった時の後悔はすさまじいことになるだろう。自分の”ふところに入れた存在”(これもまた桂翁の一風変わった愛のあり方だ)を殺すことは、翁にとっては”自分の精神を殺すこと”と同義なのだ。彼は、自分を殺す覚悟をもって相手を殺す。救うために殺すことを決断する。でもね、桂翁はそれをにこやかに言うわけだ。「これからあなたを殺します。強くなりたかったら生き残りなさい」となんでもないことのように言うわけだ。だが、それは翁が酷薄な人物であるということでは勿論無い。”ただ、自分が破滅することさえも平然と覚悟しているだけのこと”なのだ。まさに、凄絶な愛のあり方であると言えるだろう。

大介は心の底から後悔する。殺されることではない。桂翁に”自分を殺すことを決断させてしまった”ことを死ぬほど後悔する。これほどまでに優しい人間を、空前絶後の異能者を、古今無双の武術家の、そのすべてを賭けさせてしまったことを本当に後悔するのだ。その狂おしいまでの後悔が、正と死の狭間で、大介を覚醒させる。その過程が、桂翁の賭けさせた物の大きさがひしひしを感じられるからこそ、その覚醒にも説得力があり、感動的とさえいえるものになっていると思うのだった。

さて、本編についても少しは語ろう。前巻までにおいて、大介を瀕死の重傷まで追い詰めたカイとの戦いについては、実は決着はつかないまま終わる。友人の仇にして、自分自身を瀕死にまで追い込み、人格的な死さえ呼び込んだ相手に対して、大介はどこか憧れと喜びを持って対峙することになる。それは、これまでどこか”戦士としてのあり方”に恐怖感を抱いていた大介が、ようやく”力”を持つもの、戦士としての精神のあり方を受け入れたということを意味する。戦士とは、自らの力と技を磨きぬき、自らの誇りを賭けて強者と戦う人種である。自らが身に着けた力を振るうことに喜びを覚え、戦いの中で生死を賭けることを何よりも尊ぶものたち。大介は、ついに自らの力への喜びを自覚し、戦士の道を歩むことになったのである。その時点で、友人の仇という名目は消え去る。友は、戦いの中で全力を振り絞って戦った誇り高き戦士であり、それを実質的に殺したカイを恨むべきものではない。カイもまた一人の戦士として大介と戦い、”大介の父”にひたすら執着し続けた彼も、ついには戦いの中で生きる大介の存在を認める。父の替わりではなく、シャギードッグ(むく犬)と呼ばれた自分自身を認めてくれたことに大介は喜び、いつか来る闘争への喜びを胸に、その場は別れるのだ。戦士としての生き方を、これから大介は選んでいくのだろう。

その後の話はほとんど余談のようなものだ。あいも変わらずオズを狙う組織たちが、罠を張り巡らせてオズの捕獲に乗り出してくる。だがしかし、少しずつ人間的な感情に芽生え、まりんと大介にたいする情を持ち始めたオズ、そして誰よりも強い意志を持つまりん、戦士として覚醒した大介の三人が揃った以上、こいつらは最強のトリオだぜ。沙織を利用し、多くの人々の心を操り道具とする存在に対して、大介の、まりんの怒りが爆発する。退屈を紛らわそうとしているだけに見えるオズもまた、まりんの願いを受け入れて、沙織を救うために力を振るう。

人はさまざまな存在につながって生きている。社会や組織、未来や過去、自分の資質にさえ縛られ、操られている。だが、唯一選択できることがある。その中で”なににあえて縛り付けられるのか”と言うことだ。自分の意思で自分を束縛する存在を決めたとき、束縛はマリオネットの糸ではなく、前へ進むための強き手綱になるのである。

最後に彼ら3人が望んだものは、まだ曖昧で形の無いものかもしれないけれども、少しでもよりよい選択を望んだ彼らの望みは、おそらくは正しいものなのであろう。それぞれがゆっくりと自分の選択を積み上げていく中で、彼らの未来は、まだ曖昧なまま、輝きを放っているのだった。

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