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2009.09.09

『翼の帰る処(2)-鏡の中の空-(下)』読了

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翼の帰る処(2)-鏡の中の空-(下)』(妹尾ゆふ子/幻狼ファンタジアノベルス)読了。

本来は異世界大河ロマンの要素が強かったシリーズだったが、少しずつ神話の時代が現出してくるという展開に興奮が留まるところを知らない。ヤエトは、あくまでも彼が仕える皇女のために働いているのだが、彼の持つ”恩寵”の力は彼を決して人間の諍いのみに目を向けさせることはないのだ。まあそれを言っては、彼自身は人間同士の争いにだって首を突っ込みたくはないのだが、すでに皇女を見捨てることなど出来ない、そして彼が本質的に持つ王佐の才はヤエトを決して望みの隠居生活に浸らせてくれることを良しとしないのだった。隠居を決め込むには、彼はあまりにも有能すぎるのである。しかも、極端なまでに自己と言うものを軽んじ、利他的(と言うより排自的)な精神は、そもそも彼自身を楽な道へ歩ませてくれるない。というよりその意思がない。このあたりにヤエトと言う人物の矛盾と陰影が存在していると言えよう。彼は人間としては歪なのだが、その歪さが人を惹き付けることにもなるし、反発されるところでもある。どちらにせよ彼に平和な日常は訪れることはないのである。南無三。

常に何がしかの厄介事に巻き込まれるヤエトだが、自らの恩寵を使いこなすことが出来るようになるとともに、神代の時代が現出し始めていることを知る。(無駄に、どころか彼本人を滅ぼすほどに)責任感の強いヤエトは、”知ってしまった”ことに対する責任を果たすべく、神話の時代からの滅びにさえ立ち向かうことになるのだった。皇族の継承争いに介入し、皇女の生き残る目を模索しながら、同時に彼は世界を救う試みを行わなくてはならない。だが、彼に悲壮感はまるでない。日々の不平不満を口にしつつ、愚痴を垂れ流し、ふらふらになりながら、一歩づつ物事に取り組んでいく。その姿勢こそが多くの人に信頼される彼の美質であろうが、結果、ますます深みにはまっていることに本人も薄々感じてはいるものの、あえて困難な道を歩んでしまうところが実に愉快で魅力的な人物と言えるだろう。本人にとっては気の毒と言うほかないのだが。

物語は世界の行く末に暗雲が経ち込めていることを予感させながらも、皇位継承を軸に進んでいる。四大公家の一角たる黒狼公に任じられてしまったヤエトは、領地で起こる問題に対処しつつ、皇女を支えていく。皇位からは最も遠い存在でありながら、才気を見せつつあるものの、まだまだ子供っぽく、ヤエトを困らせる皇女との主従のやりとりのおかげで、殺伐となりかねない継承争いをどこか微笑ましげな印象を与える。だが、生き残りを模索して第二皇子との共同戦線を取り付けるも半ばに、第三皇子の暗躍がヤエトたちを襲いくる。その陰謀に立ち向かう皇女たちの運命やいかに…という展開もまたサスペンスフルでとても躍動的である。背後でうごめく神々の動きと、表側の人間たちのドラマは少しづつ交わり始めており、物語の行く末は未だ見えてこない。未来視の力を持つ女性と出会い、救い主としてみなされてしまったヤエトの行く末は。自らの道を歩み始めた皇女の未来は。

4冊目にして物語は未だ天井知らずに面白くなっている。要素の一つ一つに物語としての面白さが凝縮された作品と言ってよいだろう。現時点で、もっとも先が気になるファンタジーであると断言してもかまわないのではないかと思うのだった。

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