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2009.08.16

『ヴァルプルギスの後悔 File2.』読了

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ヴァルプルギスの後悔 File2.』(上遠野浩平/電撃文庫)読了。

なんかすごく久しぶりに上遠野浩平の読んだ気がするのだが(そういえば事件シリーズを積んでいるよ、忘れてた)、予想以上に面白くて、自分がどうかしてしまったのかと思った。いや、別に上遠野浩平が嫌いとかそういうことではないのだが、一時期、上遠野浩平の書く話は全部同じ話だよなーと思い始めてから、あまり積極的に読む気がしなくなってしまったのだ。ところが今回読んでみたら、非常に面白い。おそらく、以前読んだ時と、何らかの意識変化が自分の中で起こったのだと思うのだが、どういう変化が起こったのかは正直さっぱりわからん。まあ、同じテーマの同工異曲であろうとも、それが面白いものであれば面白いということなんだろうな、ということなんだが、これだと何も言ってないに等しいよな…。まあ、いいや。とにかく、今の自分は上遠野浩平がとても面白く読める自分になれたと言うことだ。それで十分。

というわけで霧間凪が主役で、上遠野ワールドにおいてたびたび言及されてきた”魔女戦争”について描かれるようだ。上遠野ワールドの中でもけっこう重要なポジションにあるような気がするので、この物語が周囲にどのような波紋を広げていくのか、ただそれだけを想像するだけで胸が躍る。そもそも上遠野浩平が描く物語とは、”世界のどこかとつながった物語”であり、たとえ当事者本人には大変な失敗であたったり、不幸だったり、ただひた向きに抗っただけであった事柄は、必ずどこかに”受け継がれる”と言うことを描いているものと言うことが出来る。この世に無関係な出来事など無い、すべては必然の繰り返しで成り立っている、ととるスタンスですね。とは言え、その中でもなんらかの意思を受け継ぐものの中でも、一際大きな存在感を放つ登場人物もいる。それが”炎の魔女”霧間凪であり、ただひたすらに正義の味方である事を志向する彼女は、おそらく本質的には壊れていると思うのだが(少女期、と言っても今もそうだけど、そこでのスケアクロウとの出会いによって、自分の生きる意味を規定してしまったと言う意味で、彼女は壊れてしまっている)、彼女の持つエネルギーの量は凄まじく、彼女の行った行為によって、実は世界は何度も救われていたりする。彼女自身は自分に出来る範囲のことをやっているにすぎなく、事実、世界の謎に直接迫れたりするわけでもないのだが、彼女の姿勢が、生き方が、自然に他者に影響を与え、世界の危機を救っていたのだ。ただ”可能性を絶つ”ことによってしか世界を救わないブギーポップとは、そこが根本的に異なる。彼女はあくまでも、人間の持つ可能性としての問題のみを武器に、世界と戦っているのである。

そんな霧間凪が、純粋な”正義の味方”であることを許されるのか否かというところが、『ヴァルプルギスの後悔』と言う話になるのだろう。ただ、”普通の人間”でありながら、自らの意思と努力によって戦い続ける霧間凪自身の持つ”異能”。それによって、彼女は自らの存在意義を揺るがされることになる。”悪”たる魔女、ヴァルプルギスは、霧間凪が本来決して認めてはならない存在だ。だが、彼女の力なくして大切な物を守れないと知ったとき、霧間凪は選択することさえせずに”魔女”の力に覚醒する。正義を志向するがゆえに”悪”となることにも躊躇いをみせない。それが霧間凪の強さであり、弱点でもある。結果的にアルケスティスの介入により、ヴァルプルギスの覚醒は中途半端なままに留まっているが、果たして、霧間凪は、自らの正義の味方と言う”偶像”を守り抜くことが出来るのか、と言うところが注目されるところのではないかと思われる。個人的に、”正義の味方”などと言うものは存在することが許されるものではない。正義の味方と言うものは、結果的に、助けるものを選別している存在に過ぎないのだ。どう足掻いたところで、正義の味方に救われぬ存在がある。正義の味方とは、言ってみれば究極のえこひいきであり、エゴイスト以外なにものでもない。”悪”を自認するヴァルプルギスの方がはるかに公平だ。”霧間凪”と言う存在の中に、”正義”と”悪”と言う矛盾する存在を内包させたことは、おそらく無意味ではあるまい。両者の対立の結果、何か新しいものが生まれるのか、あるいは片方が駆逐して終わるのか、非常に興味深いところである。

さて、物語は、『ビートのディシプリン』から分岐する形で始まって、2巻にてついに合流を果たした。『ビートのディシプリン』ラストにようやくつながったと言える。そちらを読まないとわけのわからんところがあるのが相変わらずの一見さんお断り仕様ではあるんですけど、まあこれは今更の話ですよね。こんなことで躓くぐらいだったら読まなくていい、という突き放しぷりが見事であります。

ピート・ビートと朝子が今後どのような役回りを演じているのか、大変気になりますので、続きはもう少し早いといいなあ。

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コメント

懐かしいですねー。多分、ラノベで初めて衝撃を受けた本です。記憶が確かなら『ブギーポップ・アンバランス ホーリィ&ゴースト 』まで読んだ気がする。調べてみたらその後本編は四巻分しか出てない。横道に逸れすぎてるのか遅筆なのか。

完結したら、古本で読んでみるのもいいかも。

投稿: 暗黒 | 2009.08.17 01:56

ブギーポップと名のつくものは確かに4冊ですが、その間にスピンオフと言うか、実質、ブギーポップが出てこないだけでほぼ本編の話(ビートのディシプリンやこのヴァルプルギス)が6冊ぐらいあるので遅筆とは言えないと思いますよ。早いとも言えませんが、他シリーズ作品をたくさん抱えていることを考えればこんなものでしょう。また脇道に逸れているわけではないと自分は思いますよ。物語自体はおどろくほど枝葉が少なく、物語はクライマックスに突き進んでいます。脇道に逸れていると感じるのは、おそらく別シリーズでも同一世界を扱っているため、そう思われるのではないでしょうか。勘違いしやすいんですけど、他シリーズにも共通する設定や人物が出てきたりしますが、別にブギーシリーズというわけではなくて、他作品ですからね。

投稿: 吉兆 | 2009.08.17 21:01

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» [本]add [「短歌と短剣」探検譚]
  「ヴァルプルギスの後悔」2巻 上遠野浩平(新刊)を読む。面白い。 ブキーポップシリーズの最新刊。前巻リンク グループ異能戦隊が出てくるが、遂に外見的特徴は無し状態に。イラストも大変だな。(読むのも大変だが) リキ・ティキ・タビとかアルケスティスとかキャラとして... [続きを読む]

受信: 2009.08.18 01:23

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