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2009.08.09

『剣の女王と烙印の仔(2)』読了

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剣の女王と烙印の仔(2)』(杉井光/MF文庫J)読了。

決して面白くないわけではないのだけど、どうも杉井光の良い点が殺されている感じがあって、あまり評価出来ない。別に悪いわけではないのだけどね。ただ、自分にとって、杉井光という作者の長所は、良い意味で非常にスケールの小さい物語を描くところにあると思うのだ。スケールが小さいというのはあまり肯定的な意味には捉え難いと思うけど、自分はそうは思わない。つまり、俯瞰してみてしまうと取りこぼしてしまうような、そういった人々の、小さな感情のさざなみを捉えることに長けている作者であると思うのである。『神様のメモ帳』や『さよならピアノソナタ』では、主人公の、言ってしまえば自閉した己の中に埋没してしまいそうな感情を、かろうじて外に向けるようになっていくその過程が、非常に丁寧な手つきで語られていたわけだが、作者はまさにそういう”うじうじしたところ”を描くのが本当に上手く、そしてクライマックスでは、その”うじうじ”が昇華されていくところにリアリティを失うことなく描いていると感じられるのだ。

翻ってこの作品を見ていくと、物語の骨格は、非常にスケールが大きなものになっていることがわかる。聖王国という国家の中で、血統によってその運命を定められたもの達が、運命に抗う物語であるということが出来る。ところが、どうも描き方が良くない。運命的な、大きな流れによって翻弄されているはずの主人公たちは、結局、自分たちの内面のことばかり気にしていて、世界の流れには無関心であるように思えるのだ。物語の内包している規模は一国家以上のものがあるのに、物語としてはあくまでも個人的な範疇に留まっている。ファンタジーで戦記物でありながら、やっていることは『神様のメモ帳』や『さよならピアノソナタ』と大差ないんですよね。自分の中で”うじうじしたもの”を抱えて、それを解消することでしか物語が動かない。前述の2作はそれでも良いと思うんですよ。現代が舞台だし、描写されている世界も狭いからね(広くても学校やニート等の小集団を超えない)。でも、一応これはファンタジーでしょ?戦記物でしょ?運命とか神とか人間の生死がかかっているのに、いつまでも自分の感情だけに拘っている主人公たちには違和感を感じてしまうんだよな。

結局、世界は変わっても、作者のやっていることには何一つ変わりが無いのが問題なのかもしれない。杉井光は作品にスターシステムを導入しているんだけど、それが悪い方向に働いてしまっている感じ。『神様のメモ帳』のナルミが、ファンタジー世界で切った張ったの世界に紛れ込んでしまった感じといえば、この違和感を理解してもらえるかなあ。

まあ繰り返すけど、悪くは無いんですよ。それ以上に、違和感が強いだけで。それが致命的なんだけどね。

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