『ケモノガリ』読了
『ケモノガリ』(東出祐一郎/ガガガ文庫)読了。
白状しよう。僕は作家としての東出祐一郎をあまり評価していなかった。文章は下手だし、構成もぎこちない。自分の好きな”場面”を描くことは得意だけど、それ以外は全然駄目な典型的な同人的作家だと。この人のシナリオライターを書いていたゲームでも同様のイメージを破るものではく、どうにも違和感ばかり感じてしまい、純粋に面白いとは言えない作品ばかりだった。
告白しよう。そんな作者に対して、どうやら自分は不当な評価をしていたらしいということを。この作者の資質を見誤っていたがゆえに、その作家性を正しく見極めることができていなかったということに。
僕がこの作品を読んでようやく東出祐一郎という作家の、資質が、あるいは本質が見えたような気がするのだが、果たしてそれはどういったものなんだろうか。結論を出そう。この作者は、本質的に”重篤な中二病患者”であるということなのだ!もはや病的などと言う言葉をすべて吹き飛ばした、純粋無比の中二病。それが東出祐一郎という作家の本質である、と自分は理解した。中二病こそがこの作者を理解するためのキーワードだったのだ。
中二病的な作品を描く作家は多いが、作者が完全に中二病をこじらせた挙句、徹頭徹尾、中二病たる自分の好きなものを書いているという点こそが、まさしくこの作者の特異性である。
さて、続いて内容について説明する前に、すこし質問をしたい。
あなたは、現実の自分に失望し、本当は自分にはものすごい才能があるじゃないか、と考えたことはないだろうか?あるいは、現実に対するルサンチマンに基づき、世界に対してすべてをぶち壊したいと考えたことはないだろうか?そして、今の自分は本当の自分ではなく、危機的な状況に陥ったとき、なんらかの力が覚醒して、すべてを破壊してしまったりすることを夢想しなかっただろうか?
もう一つ質問をしよう。
あなたはホラー映画を見ていたとする。チェーンソーを持ったホッケーマスクの殺人鬼の話でもいいし、鉤爪の怪人でもいいし、巨大なハサミを持った男の話でもかまわない。そういう殺人鬼に狙われた場合、大抵の登場人物は、恐怖に泣き叫び、愚かな判断をして、ゴミのようにプチプチと殺人鬼に殺されていく。さて、登場人物の中に、ある特殊な人物がいると考えてみて欲しい。その人物は、殺人鬼が跋扈する異常な状況下においてもまったく取り乱したりせず、恐怖せず、常に冷静に生き残るための最善手を打ち、殺人鬼に殺されるどころか逆に罠にかけ、チェーンソー(ハサミでも鉤爪でも何でもかまわない)を振りかざす手を逆に叩き折り、戸惑った相手の足をへし折り、悲鳴を上げようとした殺人鬼の口を開く前に首を刎ねてしまう。そんな話についてどう思う?
どちらの質問も、本当にろくでもない内容だと思う。幼稚で、俗悪で、不遜で、プライドばかり高い、そんな人間の妄想のようなものだ。ああ、まったくそのとおりだ。認めよう。
それゆえ、どちらかの質問、あるいは、どちらの質問についても、否定的な意見を持った方。まったくその感覚は正しい。その感覚を大事にして、健全な生活を送っていって欲しいと思う。
だが、もし。万が一にでも、どちらの質問に対しても、肯定的な意見を持ったのなら。前者の質問に対しては、「あーあるある」とか「考えたことがあるなあ…」、また後者に対しては「面白そうだなあ」とか「楽しそう!自分もやりたい!」などと思ったのなら。
そういう人は、なにがあろうとも、この作品、『ケモノガリ』を読むべきである。そこにはあなたが夢想しているすべてがある。妄想の中にしまいこみ、普段は鍵をかけてしまいこんである”それ”がそこにはある。多くの人が、おそらく、10人中7、8人くらいの人は「くだらない」と一蹴するであろう、”それ”がそこにはある。
これは10人中2、3人に配分されてしまった、他人には言えない様な幼稚な妄想から脱却できない人向けの、ボンクラ野郎向けの究極の中二病小説である。これを読まずにボンクラを気取るなど10年早い。こういう作品こそ、作者のろくでもない妄想を垂れ流した本当の中二病と言うのだ。
すべてのボンクラたちに捧ぐ、素晴らしい中二病小説である。そこには、妄想も、俗悪も、幼稚さも、卑屈なプライドも、それらすべてがある。
僕から語れるのは、それだけだ。あとは、読みたいと思った人が、読めばいい。
と言うか、すべてのボンクラ野郎共は、読め。絶対だ。
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コメント
これは素晴らしい感想ですね。
投稿: | 2009.07.21 02:35
ありがとうございます。
寝る前に読み始めたんですけど、読み終えたら目が冴えて眠れなくなってしまった興奮をそのまま文章に叩きつけてみました。微妙に意味不明なところもありますが、自分の興奮はそれなりに伝えられているといいんですが。
投稿: 吉兆 | 2009.07.21 20:15
自分もケモノガリ読みました!
そうなんです、吉兆さんの言うとおりなんです!
なんとゆーか、ボンクラのための手向けの華というか、久しぶりに実のある小説読めたなって感じです!
でも、アマゾンとかのコメントに『ちょっと微妙』って評価が入っていたので少し残念でした(落)
やっぱり、あーいうのって好きな人じゃないと楽しめないものなのかなぁ。。。
投稿: | 2009.07.28 12:04
>でも、アマゾンとかのコメントに『ちょっと微妙』って評価が入っていたので少し残念でした(落)
あー。自分はこの小説が大好きですが、実は微妙だという人の理屈もわかるんですよ。あまりにも趣味に走りすぎているところも、受け入れられない人は受け入れられないだろうし。正直、作者はあまり小説が上手くないと思いますしね(ぶっちゃけ過ぎる)。
まあ、これは楽しめる人は死ぬほど楽しめる作品ですが、傑作とか名作とかとはほど遠い作品なので、他人の評価は気にせず、自分の中だけで楽しんでいればいいんじゃないでしょうか。
投稿: 吉兆 | 2009.07.28 20:56