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2009.07.16

『勇者と探偵のゲーム』読了

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勇者と探偵のゲーム』(大樹連司/一迅社文庫)読了。

冒頭にすでにワーカムなる物語作成ソフトの存在を示しているところからして、完全に神林長平リスペクト作品と言える。物語ることを徹底的に描いているあたりからしても、神林長平の作品はセカイ系そのものだと自分は思っているので、その基本原則をライトノベル的に再構成したものだと僕は解釈した。

ようするに、物語の不可能性を描いた作品であると言える。”物語”とは、物語の外の出来事には一切関わりがないのだ。物語とは、現実を抽象化し、真実を形骸化し、世界を系統立てる。それはご都合主義だと非難も出来よう。だが、それこそが”物語”なのだ。語られた瞬間に、それは事実となり唯一無二の真実となる。これはフィクションの世界だけではない。物語とは、”いかなる出来事であろうとも、語り始めた瞬間から成立してしまうのだ”。

だから、主人公が冒頭から、「これは物語ではない、記録である」と言ったところで、それは文字にした瞬間から物語化するのである。あらゆる出来事は物語化を免れることは出来ない。たとえ”小説”や”ドラマ”、あるいは”アニメ”と言う形で語られなかったとしても、人の口にのぼった瞬間からそれは物語と化す。例えば噂話などは、典型的な物語の一つだ。人々に噂された出来事は、人々に語られたことによって、真実は変質してしまうのだ。そこに、客観的な真実などは必要とされない。物語とは、物語を必要とされるところにもたらされる。その物語を必要とする人間にとっては、その物語こそが真実になるのだ(噂話が、虚実曖昧なままに”当たり前のこと”と受け入れられるのにも似て)。

また、語られたことを語られたことが語られる、と言う、物語のレイヤーを重ね合わせることでしか、物語は存在しえない。物語は語られた瞬間に”物語”となる。ならばその物語を語ったものの物語は?そして物語を語ったものの物語の物語とは?所詮この世はメタゲーム。あらゆる事象はメタ言語によって記述される。記述された世界に生きている。それは、我々が”現実”と呼ぶものでさえ、それが物語とは無関係でいられないと言うことを示すものだ。

物語の持つ強制力とは強力なものだ。語られたことが事実である、と言うことは、語られないことは切り捨てられると言うことである。語られないことはすべて嘘になる。だが、語られなかったことに意味はないのだろうか?価値がないのであろうか?ないのである。少なくとも物語的にはまったくないのである。だがそれは嘆くべきものではない。物語と言うものは、あくまでもメタ次元の存在であり、メタの存在に意義を見出さなければ、物語的に無価値であったとしても、とくに問題はない。多くの人は、そのように、自分が自分の人生の物語における脇役でさえないことに気がつかず、生きているのだから。

この作品の語り手の不幸は、自分とその周囲の人々が、物語に関われないことに自覚的でありすぎたということである。《日本問題象徴介入改変装置》などと言うものがあるせいで、物語られると言うことに認識できてしまったことにある。本当は誰も気がつかなかったであろう、自らが人生の脇役に過ぎないことを知ってしまったのだ。物語に対する憧れ。自分もいつか主役になれるのではないかと言う希望。それはある特定の時期におけるだれもが感じることではある。

それこそが、彼らの最大の不幸であるのだった。物語そのものには、本来価値などないのだ。価値を与えるのは物語る人間と、語られる人間によって付与されるに過ぎない。それに気がつかず、ただ、物語的意味付けを行おうとしたクラスメイトたちと、それを傍観することで”物語ってしまった”彼は、物語と言う意味の中に取り込まれる。語ってしまった出来事と、その出来事を語ってしまう語り手は、否応なしに物語となる。

そこには真実などと言うもは、どこにもない。事実を記そうとして、記すために語ってしまった語り手は、”物語”を伝えるだけに過ぎないことに彼は最後になるまで気がつかなかった。彼が行ったことは、新しい”事実”を生み出したに過ぎないのだ。

一度生み出された物語は、語り手の意思とは無関係に、確固たる意思を持って存在し続ける。そこに、語り手自身の”真実”はない。あるのは、”物語化”された”事実”があるだけなのだった。

これは、おそらく、そのような物語なのである。

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