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2009.07.10

『円環少女(10)運命の螺旋』読了

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円環少女(10)運命の螺旋』(長谷敏司/角川スニーカー文庫)読了。

作者はおそらく今がノリにノッている時期なのではないだろうか。もう、どうなっても面白い。前巻において、自分の偽善に(ようやく)自覚した仁が、自分の望みのために誰かを犠牲にすることを受け入れた結果、訪れた束の間の平和。しかし、なんの緊張感もなく姿を現した王子護と、彼が連れてきた舞花に良く似た少女。彼らが訪れたとき、静寂は崩壊する。

と言うわけで、一皮剥けた仁が大活躍!…とはなかなか行かないなあ。人生って厳しいですね。成長した、と自分で思ったときは、大抵、ただの勘違いと言うあれな感じ。いや、まだそこまで直面してはいないけど、今の仁は、これまで”偽善”を盾にしていたのと同様に、”悪人”であることを盾にしているだけですよね?ようは開き直ったということが出来ますが、人間、開き直っただけですべてが解決するわけが無いんですよ。結局、世の中モノを言うのは権力と情報に基づく実行力。仁は、ようやく味方と言うか、一つの勢力を得ることが出来たわけだけど、それをどのように運用していくのかについては、彼のこれからの行為にかかってくるんだよな。なんつーか、大会社に勤めていたけどその組織の論理が受け入れられなくなって飛び出して、企業を起こしたみたいな感じ(そのまんま過ぎる)。起こしたはいいけど、結局、これからが本番なわけで、仁の道筋にはまだまだ困難が予測される展開は、なんと言うか、本当に作者は人生という終りの無い戦いを描いているのだな、と思うのだった。

きずなに対する感情の曖昧さも、仁が開き直ってしまったからと言って、彼女の気持ちが収まるわけではないからして。結果的に、きずなに同じ罪を着せることで、仁を免罪させようとしている物語の要請を感じてしまったので、手放しで受け入れることは難しいなあ。それとこれとは別問題だろ…。とはいえ、ある種、再び二人の関係はスタートラインに戻ったといえるわけで、ここから再び構築しなおしてくことになるのかな。メインヒロインが誰なんか、ときどきわからなくなるが、彼女との関係も、ただ破局するのではなく、傷を舐め合うのでもなく、きちんとした前向きなものになってくれることを切に願いたい。まあ、こんな事を言うと人非人扱いされそうだが、きずなって面倒くさい女の子だからなあ。甘えようとすると際限なく甘えさせてくれそうだもんなあ。男を駄目にするタイプの魔性の女だと思うので、今後の展開は不安がいっぱい。上手く関係を再構築できればいいのだが。

まあ、他にも今回は新キャラもバンバン出てきているけど、やっぱ今回の肝は、メイゼル関係の話でしょ。円環世界におけるメイゼルの母、イリーズの革命の物語は、まさに今回の最重要人物(死んでるけど)にふさわしいものだった。要するに彼女は革命者であり先駆者なんだけど、あまりにも革新すぎる思想と行為は大きな反発を招いてしまうのだ。だが、通常の革命者と彼女の違うところは、一人で世界と対峙出来てしまったことなのだな。円環のままに停滞した世界を、彼女は神を殺すことによって螺旋であることを証明した。それは、世界の本質に、進化が内包されていることを証明したということ。そのための犠牲は大きなものだったのだが、それは100年後、1000年後の円環世界のために必要なことでもあった。事実、彼女の行為によって、すでに世界は一部の超高位魔術師のものではなくなり、平民たちの台頭を促した。イリーズの真意は定かではないが、少なくとも、彼女の行為が旧体制、旧世界を完全に破壊したことは間違いないのである。しかし、それを民衆は理解しない。魔王と恐れられた織田信長の如く、あまりにも先駆的過ぎる存在を、マクロを見据えて動く人間を、大衆は理解出来ないのである。

彼女は神を殺して本懐を遂げ、消え去るが、その憎悪はメイゼルの元へ向かう。そこで彼女が示したものは、母の為したことを受け入れること。世界の憎悪を一身に背負い、それを自らの罪として受け入れることで”世界を許した”。母が作り出した新しい世界を支える生贄として、自らを与えた。それはまさに”王の道”。王道である。自らを民のために捧げ、生贄として饗され、すべての結果をわが身に引き受け、それでもなお運命に抗う。小さな魔女の伝説が始まったとき、彼女の王道もまた始まったのである。

これは一つの事柄を意味していると思われる。それは、仁との別離。彼女が王道を行く限り、人並みの幸せは受け入れることは出来ない。それは仁の望みとは真っ向から対立する。”メイゼルを幸せにするために悪を為す”ことを決めている彼の行動は、いつかどこかでぶつかり合うことになるのではないだろうか。

だがしかし。メイゼルが言うように、たとえ傍にいることが無かろうとも、”家族”になるということは出来るのかもしれない。彼らをつなぐものは、どこかに存在するのかもしれない。圧倒的な力を振るう”雷神”に対して、力を合わせて立ち向かう仁とメイゼルの姿には、何か新しい可能性を開くものとして、何がしかの希望を感じさせる。王の道を歩むメイゼル。悪を自認する仁。二人が手を取り合って進む先にはなにがあるのか。さまざまな勢力がひしめき合う現状の中で、二人が歩む未来は不確定ではあるが、希望はまったくないわけではない。彼らの行く道はこれからも苦難が待ち受けているだろうが、それでも失われないものがあるとすれば、ただ希望するだけのだろう、と思うのだった。

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