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2009.06.08

『魚舟・獣舟』読了

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魚舟・獣舟』(上田早夕里/光文社文庫)読了。

小松左京賞の受賞によりデビューした作者の第一短編集。この作者の本を読むのは初めてだったのだが、それで何故読もうと思ったのかについては長い話になるので簡潔に記すと、とある感想サイトで褒められていたから。ぜんぜん長くない話だと言うのは秘密だぜ。

小松左京賞受賞と言う経歴から、バリバリのSF作家なのかと思っていたのだが、実際に読んでみれば、SF、ホラー、リリカルな叙情物とバラエティの豊かさに驚かされた。SFでは確かにあるのだが、そこには人知を超えた異形とでも言うべきものの描写があったり、一方、異形ではあるものの哀しくも切ない物語であったりする。基本的には人間ドラマが基底にあるのだが、それを彩る装飾が異形な印象だった。なんと言う僕の好みの作品か。これは嬉しい驚きであった。

以下各話感想。

「魚舟・獣舟」
表題作。各界(てどこだ?)で絶賛されたと言うSF短編。なんと言っても世界観が魅力だなあ。魚舟と獣舟の存在がとにかくいい。設定をばらしてしまうと興がそがれるので語るつもりは無いけど、その設定が、グロテスクで明らかな異形でありながら、どこか共感をさそわれるところがすごい。異形と異世界を描きながら、どこか現代人な理解出来るような部分を作れるのは尋常じゃあないよな。その上で人間ドラマを描いてしまうのだから、確かに絶賛されるのも当然かな、と思う。

「くさびらの道」
グロ度では今作中最大。そのくせリリカルと言うわけのわからん作品。これはグロいわー。そこはかとないリリカルさ含めてグロい。まさに異形と言うにふさわしい作品かもしれん。結局、幽霊とはなんだったのか、きちんと説明が無い辺りも好みだ。

「饗応」
ショートショートなんで特に言及することもないんだけど、これだけの短さの中に異形感とSF感を潜ませるあたりは面白い。

「真朱の街」
これはなんか一番ライトノベルっぽい。近未来+妖怪という組み合わせがもろに学園異能の被っているせいか。でも妖怪そのものはそんなにメインじゃなくて、妖怪の街にやってきた主人公の過去をめぐる物語になっている感じ。なんかこれ一作で終わるのが勿体ないよ。登場キャラをレギュラーにして連作短編集にするべきじゃね?百目さんはわりといい異能ヒロイン。

「ブルーグラス」
本当になんでもない現代劇なんだけど、それでも異形を持ち込まずにはいられない作者の業を観た。この人は常に現実とは異なる位相を表出する部分を表現せずにはいられない人なんだな。この人の描く異形は、常に美しく、グロテスクで、物悲しい。

「小鳥の墓」
短編集と言いつつ、ほとんど長編並みの長さを誇る中編。どうやら作者のデビュー作の前日譚らしい。しかし、そんなことは関係なく面白かった。とある異形を抱えた男が回想する幼き日々の出来事。なにもかもかんじがらめにされ、管理されたセカイで、そこから脱出しようと足掻く幼い魂の軌跡。理性的でどこか欠落している主人公も魅力的だが、悪意と暴力でもって相手を従わせながら、どこか愛嬌のある勝浦と言う少年の造型が見事。なんの縁もない他人を助けることもあれば、その助けた相手に酷薄で残酷な仕打ちもする。敵は徹底的に痛めつけながら、人を惹き付ける。そんなセカイに反逆しようと試みる勝浦と、セカイに退屈していた主人公の間に育まれる、友情とも言えない不思議な交流は、なんとも言えないものがあった。セカイに反抗しながら、敗れ去る彼らの姿は哀しみに満ちているが、勝浦のために泣く主人公の姿は胸に迫る。だが、ラストで明らかになる”セカイ”の真実の残酷さは、彼らの行為すべてを破壊するものだった。あまりに合理的な、合理的過ぎるそのセカイを知った主人公は、嘘に塗れた”世界”を暴くために生きていく。それが彼が勝浦とともにある唯一の意味であるのだろうからだ。

総括。上田早夕里という作家は、美しい異形を描くSF作家であると認識した。とても僕好みの作品を書く作家だということがわかったので、とりあえずデビュー作の『火星ダーク・バラード』を買ってきました。

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コメント

表題作と「小鳥の墓」がとにかく印象的な作品でした。
美しさ切なさ憎しみ、そして温み、人間の様々な感情を含みながら、それを背負って生きる強い決意が感じられた「魚舟・獣舟」のラスト描写は大変に気高く気に入っております。この頁数でこれだけの設定と(物語のその後を読者に感じさせつつ)人間ドラマをしっかり完結させる著者の筆力には驚愕ですね。
「小鳥の墓」の主人公は、やや感情が欠落した思考、それを割と素直に行動に反映するところや、システムめいた世界に対する距離感が(色とベクトルは違いますが)どこか「ANGEL+DIVE」の夏彦に似ているように感じました。

投稿: isaki. | 2009.06.09 22:04

人間ドラマが骨太なのもいいんですが、映像的なイメージが、非常に異形感に溢れているところも良いと思いました

>「ANGEL+DIVE」の夏彦に似ているように感じました。

なるほど、言われてみればタイプとしては似ているかもしれません。どことなく”欠いている”印象があります。同様に社会から逸脱していく傾向もあるのも共通していますね。

投稿: 吉兆 | 2009.06.09 23:12

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