« 『薔薇のマリア11.灰被りのルーシー』読了 | トップページ | 『ペンギン・サマー』読了 »

2009.05.03

『星図詠のリーナ』読了

51j1eylz68l

星図詠のリーナ』(川口士/一迅社文庫)読了。

これは面白い。マッピングファンタジーってなんだそりゃ、と思ったら本当にその通りの話だった。主人公の王女が地図を愛しているという基本設定そのものが、外の世界への好奇心と、彼女の持つ広い視野に立ってものを見るというキャラクター設定とリンクしているところがまず上手い。マッピングという概念が単純に地図作りだけに留まらず、主人公、リーナの持っている行動理念、そして何より物語にテーマに至るまで貫かれているのだ。つまり、地図を作ると言う行為は、自分の目の前だけを見るのではなく、より俯瞰して世界を見渡すと言うことであり、そのように世界全体に向かって開かれた視野を持っているところが、リーナの魅力であり、根幹にあるのだということをきちんと表現していると言えよう。傭兵として(物語中で明かされるがそれ以外の理由もあって)刹那的な生き方をしているダールとの交流はまさにそのテーマの際たるところであって、彼が世界の広さをリーナを通じて感得していく展開には、まさにこれ以外に考えられない展開だと言ってよい。これはリーナが世界に向かって自分を見出す物語にして、ダールが世界の広さを知ると言う物語になっていて、この二人が物語のテーマ的な部分をほぼ担っていると言ってもよいのではないかと思われる。決してキャラクタ小説的には尖ったところのないこの作品の中で、この二人がとくに魅力的な造型に感じさせられるのは、そのテーマ的な部分と完全に合理している部分が大きい。このようなキャラの立て方と言うのもあるのだよな、と、作者の上手さに唸らされた。これはライトノベル的には盲点と言える。ラノベに限らなければこういう立て方もあるが、それでいてライトノベルとしても成立しているところにこの作品の非凡さがあるように思うのだった。

この作品は非常に丁寧に構築されており、ファンタジー小説としてもなかなかに意欲的な取り組みをしていると思われる。世界観などは既存のファンタジーを逸脱していないように思えるが、おそらくこの作品の語るべき部分はそこにはない。この作品は、ファンタジーの世界を、地図を媒介として地続きに表現しようとしているところに注目するべきであろう。読者は地図を通じて、ファンタジー世界に生きる人々の息遣いを感じることが出来るのだ。まさしく旅人たちが語る物語を聞くが如く。その表現に取り組んでいる、まさに作者の確かな力量を感じさせられる良い作品だったと思う。実を言うと、この作者はデビュー作が今一つ面白くなかったのでいささか構えて読んでいたのだが、そんな杞憂を笑い飛ばしてくれる見事なものだった。昔の自分の目はやはり節穴だったようだ。すいません。ともあれ続きを非常に待ち望みたい快作といえので、よろしくお願いします。

|

« 『薔薇のマリア11.灰被りのルーシー』読了 | トップページ | 『ペンギン・サマー』読了 »

コメント

前作が中途半端だっただけに、今回はしっかりとした下地があるので安心して読めますね。相変わらず地味感が否めませんが、それがこの作者の魅力なのかもしれません。

投稿: SHI-NO | 2009.05.05 01:56

実はこの作者の前作(シリーズ?)は読んでいないんですよ。本文でも書きましたが、デビュー作の『戦鬼』がおまり面白くなかったもので…。ただ、この作品で、作者の魅力は尖った設定やキャラにはないということが理解できたので、過去作品を読んでみようかと思えてきました。『ライタークロイス』は読んでみようかな。

投稿: 吉兆 | 2009.05.05 22:43

ライタークロイスは途中まで悪くはなかったのですが、5巻目で凄まじい衝撃のまさかの展開を迎えてしまったのが何とも微妙でした。

投稿: SHI-NO | 2009.05.09 00:08

聞くところによると打ち切りだとか。なんと言うか、あまり流行に乗っている作家ではありませんから(酷い)そういうことなのかもしれませんねえ。

投稿: 吉兆 | 2009.05.09 00:45

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29313/44877025

この記事へのトラックバック一覧です: 『星図詠のリーナ』読了:

« 『薔薇のマリア11.灰被りのルーシー』読了 | トップページ | 『ペンギン・サマー』読了 »