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2009.05.27

『鉄球姫エミリー第五幕 鉄球王エミリー』読了

鉄球姫エミリー第五幕 鉄球王エミリー』(八薙玉造/スーパーダッシュ文庫)読了。

最後はもう勢いで押し切ったような展開で、まったくこの作品らしかった。王位継承問題を力技で片付け、王位についたエミリーの、これまたハチャメチャな作戦(…柱壊していた部隊の人って絶対死ぬような…)と、もう一騎当千が比喩ではなく個人戦闘力で戦況を制してしまう超人が乱れ飛ぶもはや荒唐無稽というレベルに突破した戦場。もう、とにかく『鉄球姫エミリー』という作品が持つポテンシャルを凝縮したような最終巻でした。一つの作品としてはあまりに荒削りで、端正さとは程遠い一歩間違えるとジャンクと呼ばれかねない作品になってしまいそうな側面を常に持ちつつも、そのうちに秘めたるパワーは凄まじいな(でもジャンクもわりと好きよ)。欠点は一つ一つ上げればきりが無い。ギャグとシリアスのバランスが悪く、物語の流れを阻害しているようにしか思えないし、会話の掛け合いのテンポもぎこちなく、ようするにぶっちゃけ文体が安定していない。構成的に、一巻ひたすら白兵戦をしているような感じで、おーい戦場の他の要素を描く戦記ものには…あ、ならないのね、みたいな。政治的にも、王位継承問題をこれで解決するとか、ちょっとそこに至るまでの貴族たちのボンクラぶりを見ていると、とても素直に受け入れるとは思えないんだけどなあ…とか疑問を覚えてしまった。

だけどまあ、そんなことは些細な問題だよな。そういった欠点を抱えて、なお、この作品は超面白い。登場人物それぞれが抱える情念を、それこそ敵も味方も、凄まじい熱意をこめてひたすら描きぬいているのだ。自国を蹂躙されることへの、そして誇りを貫かんとするエミリーの怒り、あらゆる人間の盾になりたいと願うグレンの想い、リガードの、セリーナの、ヴィルヘルミーネの、パーシーの、それぞれが願い、掲げる理想と夢。その情念の描写を、作者はまったく手を抜く様子がないどころか、明らかにトップスピードを維持したまま突き進む。細かい枝葉を些事と切り捨て、一瞬の刹那に生きる人間の想いを描き続ける。そこには一切の手加減はなく、見事だと思った。

これは作者の個性であり、美点であると思う。良い作品でした。次回作にも期待しております。

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