『薔薇のマリアVer5 つぼみのコロナ2』読了
『薔薇のマリアVer5 つぼみのコロナ2』(十文字青/角川スニーカー文庫)読了。
無法都市エルデンで繰り広げられる若者たちの青春物語も2冊目。薔薇のマリア本編と異なり、エルデンで暮らす平凡な人間たちの物語になっている。それは当たり前に命がけの平凡な戦場での物語。レニィとコロナと言う、決して恵まれた境遇にいるわけではない二人が、お互いを支えあって生きていこうとする物語である。
二人が出くわす試練は決して派手なものではない。日夜アンダーグラウンドに潜って怪物と戦ったりはするものの、とてつもない化物と戦ったりすることはなく、大掛かりな陰謀に巻き込まれることもない、日常そのもの。明日の家賃をどうしようか、彼女を守れるだろうか、彼の役に立っているのだろうか。そんな風に日々思い悩む二人の姿が語られる。レニィとコロナの関係は、まさしく淡い恋の物語だ。レニィはコロナを守りたいと願い、コロナはレニィの役に立ちたいと望み、それでもときにすれ違い、ときに対立したりしながらも、お互いの距離を縮めていく展開はなんとも胸が熱くなる。本当にこの二人はお互いを求め合って、なくてはならない半身のような存在なのだな。作者特有のえぐりこむように心理を描きこむ手腕は健在で、自分の有用性を信じきれずに墜ちて行くコロナの描写は痛々しい。それゆえに、お互いに通じ合ったときの喜びは代えようの無いものなのだということがよくわかると思うのだった。
また、この物語はレニィとコロナの関係を描くとともに、彼らの仲間たちの日常も語られていく。最低の駄目男、サトーの典型的なクズ男としか言いようがない心理を赤裸々に描写している。本当にクズとしか言いようがないのだが、そういった弱さそのものについては、僕はあまり否定出来ない。努力しない言い訳を際限もなく紡ぎあげていくことはとてもつらいことなのだが、一度、自分に言い訳を許してしまうとどこまでも堕落してしまうということを容赦なく描いており、自分にも覚えのあることなので、なかなか客観視することは難しかった。本当にこの作者は容赦がない。
サトー以外にも、権堂の過去やヴィヴィアンの一端を見ることが出来るところが興味深い。権堂は底が浅いのか深いのかよくわからないところがあるのだが、この一本気なところは彼の長所なのであろう。深い傷を負っているヴィヴィアンにとっては、もしや彼は救いとなるのではないか、とも思うがなんとも言えないところではある。ヴィヴィアンの心理については明かされていないのだが、コロナを通じて彼女の根底にあるものが描写されており、このように外枠から描写していく方法は作者にしては珍しく感じられた。これはストレートに描いてしまっては駄目なところなのだろう。
ともあれ、この物語は、そういった彼らの日常を描いている。過酷で平凡な日常を。楽しくもつらい、やりきれない日常を。平凡であることは決して悪いものではない。選ばれた勇者ではない人間が、この世の大多数を占めるのだが、自分がその一人に過ぎないと言う認識は、苦いものでは確かにある。それでも誰かと共に歩けるのならば、そのような平凡な地獄でさえも、価値あるものになるのではないだろうか。
そんなふうに、思うのだった。
追記。この巻におけるコロナの美少女化っぷりはただ事ではない。イラストレーター、力はいっているな。あと、メイルーとウージェのその後がわかったのは良い読者サービス。
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コメント
このあと、下宿に戻ってからやることといったらひとつしかないわけで、そういう意味でも、つづきがあれば、是非とも読みたいですねぇ(笑)
サトーは、まぁダメ人間なんですけど、ああいう風にずるずるといってしまう気持ちは分かります。あと、実はマリアと同じで、戦力にはあんまりならないけど、危機のときに頭を働かせるポジションなんですよね。そういう意味で、あのパーティには実は必須キャラなんですよね。Ver.0を読み直したときに、そう思いました。
投稿: ub7637 | 2009.05.01 01:41
い、いや!この二人にはもう少し汚れのないままでいて欲しいっ…と思うのは読者のわがままでしょうか。続きが読みたいのはまったくの同感ですが。これで完結なんて冗談じゃないですよ。
>危機のときに頭を働かせるポジションなんですよね。
まあ、サトーはそういう風に考えることさえも面倒くさがっているのがどうしようもないところなんですが。本来なら最年長である彼が経験を生かして引っ張ってあげないといけないんですけどねえ。そんな経験を積むような人生すら送っていないと言う点で、やっぱりどうしようもないと思います。共感は出来るけど、理解はしたくないタイプのような気がします。
投稿: 吉兆 | 2009.05.01 09:35
ヴィヴィアンもクラニィ事件の“きっかけ”に関わっているんですよね。その彼女がクラニィを慕うが故に昼飯時を離脱した三人と、エルデン郊外で共同戦線を張る(しかも骨龍と一緒に)。本編からは見えなくなった登場人物たちがマリアとは同軸の時間をしっかり生きているというのが薔薇マリの(良い意味で)容易じゃないところと思っています。
コロナがキレイに見えました。なんかちまちましてたイメージがあるんで口絵見たとき「うおっ!」てなったり。もう“つぼみ”ではなく花開きかけているのかもしれません。
個人的にはサトーとマリアローズの掛け合いが見てみたいです。ボロクソに罵られるんだろうなぁ……。
ウージェはてっきり死んだものと思ってましたが……ここには蘇生式があるんだった。
投稿: isaki. | 2009.05.03 11:01
>ヴィヴィアンもクラニィ事件の“きっかけ”に関わっているんですよね。
Ver0の事件ですよね。マリアローズがS・M・Cに襲われていたヴィヴィアンを助けてしまったことからその後の物語に間接的につながっている。人間の縁の数奇さを感じさせてくれるあたりがすごいですねー。
>個人的にはサトーとマリアローズの掛け合いが見てみたいです。ボロクソに罵られるんだろうなぁ……。
うーん…マリアローズはなんだかんだで真面目なので、サトーはちょっと許容できないんじゃないかと思います。あれ(あれ扱いかよ)は人生に不真面目すぎますからね。
投稿: 吉兆 | 2009.05.04 00:35