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2009.04.26

『薔薇のマリア Ⅸ.さよならの行き着く場所』読了

薔薇のマリア Ⅸ.さよならの行き着く場所』(十文字青/スニーカー文庫)読了。

薔薇のマリア再読期間としてひたすら読みふけっていたのだが、ようやく感想を書いていないところまで到達したので書く。再読してみるといろいろ新しい発見があったりして楽しい。サイケングレンマイセルヒって、けっこう最初の方から顔を出していたんだなーとか、5巻あたりから作風に変化が見られるなあとか、とにかくいろいろと目から鱗が落ちまくった。作風の変化と言うのは、簡単に言うと、それまではまだライトノベルとしての体裁を整えていたのだけど、だんだんそのあたりから作者の情念が文章に叩きつけられるようになってきて、ライトノベルから逸脱し始めているように思う。どう考えても心理描写が詳細にしてえぐりこむような執拗さを発揮していて、読み易いかどうかで言えば、まあ、ものすげー読みにくいわな。正確には、あまりにも描写が濃厚すぎて、ものすごく読むのに疲れる。いや、僕は面白いし好きなんだけどね。ライトノベルに慣れている人には読みにくそうだなあ、と思ったりして。茨の道を進んでいるよな。この方向性で行くのなら、作者はライトノベルに拘らないほうがいいのかもしれんね。でも、現在のシリーズはきちんと終わらせてから越境してください。

前置きな長くなったので中身について話すけど、これって物語的には序章だよなあ。ルヴィー・ブルームの仕掛ける最悪のゲーム、セブンス・ゲイムが始まるまでの準備と言う感じだなあ。その前置き部分で一冊書いてしまうところが十文字青の恐ろしいところではありますが。ゲームに突入するまでの登場人物たちの心の動きを、これでもかこれでもかえいえいくたばれ!と言わんばかりに描きこんでいる。ジェードリでの騒動から帰還したマリアローズが、夢の中から帰還したアジアンと出会い、彼の新しい側面を知って突き放せなくなっていく過程とか、ユリカと飛燕の微笑ましい交流とか、ユリカ最強伝説とか、トマトクンとサフィニアの(主にサフィニアが)じれったいやりとりなど、登場人物一人一人の心理を徹底的に描いている。もはや関係性に付随する心理の綾のみを描いていると言っても過言ではない作品と言えるのだが、困ったことに(いや実はぜんぜん困らんけど)これがめっさ面白い。マリアローズがアジアンをどんどん意識していく展開なんて、思わずにやにやしちまうぜ。前巻を読んだ読者としては、アジアンのマリアに対する物狂おしいほどに切ない気持ちを理解しているので、マリアがだんだん受け入れていく展開は、思わずよかったねえ…とほろり。それ以外にも、全体的にラブの気配が濃厚なのだが、やはり関係性を描くとなると、どうしても”それ”に触れないではいられないのかもしれないなー、とか思ったりしたのが、まあみんな生き生きと描かれているからなんでもいいや。マリアとアジアンの関係も打って変って、打ち折れたアジアンを、成長したマリアが叱咤激励していく展開は、それぞれの変わっていくんだな、同じ時間は二度とは戻らないのだな、と言うことを感じさせられてしまった。すでに失ったものは戻らないが、新しく作り直すことが出来る。失うことを恐れて何かを作ろうとはしなかったマリアが、ついにここまで来たのかと思うと感慨深かった。

あと、前巻でもちらっと登場したルヴィー・ブルームの超最低野郎ぶりはかなりのもので、いやらしさと同時に不気味さを感じさせる造型は見事だった。どこまでも人間的な、人間的な悪意が凝縮されたようなキャラだったな。こういう人間は、善意も好意もすべて悪意でしか表現できないのではないか、と言う不気味さがあって、実に気持ちが悪かった。こういう一般的な理解を拒絶するような悪を構築するのって、この作者は上手いよね。逆に殺人鬼でも好感の持てる人物とかもいるんだけど。人間の善悪などと言うものは簡単に割り切れるものではないと言う認識と、悪意と言うものは確実に存在するのだと認識が両立しているんだなーなどと言うことを思った。

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