『俺の妹がこんなに可愛いわけがない(3)』読了
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない(3)』(伏見つかさ/電撃文庫)読了。
今度は創作にまつわるあれやこれや。なんかこのシリーズは、ジャンル的には妹ものと言うよりも、より広義のオタクものと言うべき作品なんだな、と言うことがよくわかる作品だった。主人公とその妹の話しと言うよりも、隠れオタクである妹が遭遇してしまうオタクゆえのさまざまな揉め事を、主人公が体当たりで解決していくという物語なんだな。三作目にしてようやくストーリーテリングのデフォルトを理解しました。遅いですねすいません。
今回出くわす妹の揉め事と言うのは、これは才能がなければとても到達できない創作の世界の話。ケータイ小説を書こうとする妹に振り回される主人公と、後半は妹の書いたケータイ小説をめぐる問題に取り組むことになる。
ケータイ小説を書こうとする妹に振り回される主人公のパートは、正直、わがままで自己中心的な妹に腹を立てたり諦めたりする主人公のドタバタを楽しめばよいと思われる。主人公は文句たらたらだけど、まあ、まがりなりにも妹とコミュニケーションがとれていてよかったじゃん。文句の言い合いでも、言葉を交わさないよかなんぼもマシよ。事実、だんだんお互いのやりとりも気安くなってきて、一巻の頃じゃ想像もつかないくらいには、交流しているもんなあ。個人的に、妹の方も、兄に対して、多少は気持ちを許しているんじゃない、かな?と思わなくも無いのだが、まあ気のせいかもしれない。後半の黒猫と主人公のやりとりを冷たい目線で見つめるところなんか、もしかしたら独占欲!?とかなんとか妄想して興奮したのは自分だけでいい。わかってる。皆まで言うな…。
妹パートと平行して、もはや円熟した老年カップルがことき境地に達する幼馴染パートも、ええっと、これはニヤニヤするべきところなのかしら?ちょっとニヤニヤするには恬淡とし過ぎているような気がするのだが…。まあおじーちゃんじゃあないけど、早く結婚しちまえよーお前らー、という印象しか思い浮かばないので、早く結婚すればいいんじゃないかな。とはいえ、主人公はいちおう、自分のは恋愛感情じゃあないと思っているらしいのだが、正直、現実を見えていないにもほどがあると思いますた。お前らが夫婦じゃなかったらこの世に夫婦なんて存在しねえ。幼馴染の方はそれなりに危機感と言うか将来設計があるようだけど、この手の話は女性の方が現実的なものだ。この調子ならば事実が追いつくものそう遠い話ではないかもしれないな。おもしろいなー。
なんか話の前半だけでいろいろ書きすぎたのだが、本編はむしろ後半に入ってからだ。妹である桐乃の書いたケータイ小説が評判を呼んで本になるという段階になって、いわゆる現実のワナビビジネスと申しますか、そのあたりの話につっこんできているのが興味深い。ワナビ、すなわち小説家志望者たちの心理描写に(軽くではあるものの)踏み込んできていて、おお、と感心した。黒猫の作品が編集者にばっさりぶった切られるシーンなんかは、かなりマイルドになっているものの(まあこのマイルドさが良くない点だとはおもうんだけど)、きちんと描いているのはえらいのかな、と思った(これ以上に描写するとワナビを含めたオタクの方々にトラウマを与えかねん)。
作品をたんなる妹ものにするのではなく、オタクネタを絡めたオタク小説とすることによって、この作品は非常に安定感が出てきていると思う。この方針は、個人的には保守的過ぎるのではないかな、と思うものの、非常に堅実なところであろうし、否定は出来ない。キャラ小説としても面白いしね。
ただ、気になるのが4巻が転換点になるという作中での指摘だ。これにより、この作品がどのような方向性を定めるのかわからないので、今後の様子を見ておきたいところだ。しかし、4巻は転換点と言うわりには短編集らしいんだよな…一体どういうギミックを仕込んでいるんだぜー。わからん。
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