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2009.03.18

『秋期限定栗きんとん事件(下)』読了

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秋期限定栗きんとん事件(下)』(米村穂信/創元推理文庫)読了。

上巻でも薄々気がついていたけど、やっぱりこの二人、とっくの昔に小市民になると言う目的は放棄していたんだなー。まあ僕は一巻を読んでいた時からそんなん無理無理と思っていたけど、やっぱり無理だったねー。予測の範囲内です。結局、人間の性(サガ)を無理に変えようなんて不可能なんですよ。無論、自分の感じたことを表に出さないように振舞うことは出来る。でも、それはあくまでそう振舞っているだけで、自分の感じたことまでは変えられないのですよね。それは自分を偽り続ける行為に他ならず、人間にとってもっとも苦しいことは、自分に嘘をつくことであると思うのです。ただ、小鳩くんと小佐内さんは、己の真情をそのまま表に出すと、即社会不適合者決定一直線であるところが難しいところなのですよね。僕はこの作品を、自分の真情と社会とのせめぎ合いに苦しむ物語と捉えることも出来ると思うのですけど、そういうところはまさに青春ミステリの名にふさわしいと思います。青春の葛藤を描きつつ、それが事件にリンクしているところが非凡としか言いようがない。そして今回の事件の結果、離れ離れになっていた二人が再び隣を歩くことになったわけだけど、それは一見したところ元鞘に収まっただけのように見えるけど、明らかに前進した関係なんですよね。以前の互恵関係は、お互いを抑圧することも目的としていたけど、今回は、お互いの真情を理解してもらう相手として、お互いを見ているところが違う。うーん、もっと正確に言えば、この二人には恋愛感情なんてものはまったくないよね?少なくとも僕の判断できるレベルでは恋愛感情はないと思う。あるいは、お互いを同類としてみなす、緩やかな仲間意識だ。仲間、と言うのともちょっと違うような気がするが、お互いがナチュラルな真情をさらけ出せる関係、と言えるだろうか。お互いが当たり前に呼吸することを認め合う関係。…うん、一般的なものではないけど、やっぱりこれは恋人の関係であると言えるのかもしれない。

事件については、事件と観測者の問題にけっこうつっこまれていて興味深かった。事件を”作る”のはいつだって観測者なのだよね。厳密には犯人じゃなくて、そこに事件があるとみなす観測者の問題。それだけでもかなり本格的なのだけど、そこに瓜生くんを中心とする、もうなんと言うか若気の至りとしか言いようのない痛々しい展開に胸が塞がれるようだ。天狗になって調子に乗って、人生の主人公を気取りながら、最後の最後でぶち壊される。これは凄まじい。小佐内さんはマジハンパねえっす。鬼か。小佐内さんに対する恐怖に打ち震えながら、充実した読書体験でありました。是非とも二人のシリーズは今後も読みたいので、是非とも続きをお願いします。少なくとも冬編は出るかな。出来れば卒業してからの二人も読みたいんだけど。

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コメント

コメント失礼します。
自分も特別意識していないと思います。この二人は。なんとなく同ミッションに関わる戦友とか、共犯者のような関係に似ているのかなと。
そもそも“小市民を目指す”という目標設定そのものが、あるべき小市民の姿から逸脱しているわけで、彼らがそれを意識すればするほど本質的には遠のいている気がするんですよね。面白いからいいんですけど。

投稿: isaki. | 2009.03.21 10:17

共犯者の関係と言うのはまさにその通りだと思いますけど、この栗きんとん事件に至って、それまでとは似て非なる関係に落ち着いたと思うんですよね。もう二人とも小市民なんて目指していないと言う。そうではなくて、ありのままの自分を理解してくれる相手、あるいは自分と同じレベルで物事を理解してくれる同類としてお互いをみなしている。”小市民”を目指すことに意味なんてない、と言うことに気がついたということは、二人とも成長したんだなあ、と感慨深いです。

投稿: 吉兆 | 2009.03.21 23:20

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