『サーベイランスマニュアル(4)』読了
『サーベイランスマニュアル(4)』(関涼子/GA文庫)読了。
『サーベイランスマニュアル』シリーズ完結編。なんと言うか、不思議なシリーズだったなあ。最初の方は、事件に巻き込まれた亮輔が主人公だったんだけど、巻が進むに連れて、最初は女神の如く神聖で超越した存在であった寧がどんどん普通の人間の領域に降りていって、少女らしくなっていく。変わって亮輔は、巻が進むに連れて透徹した、覚悟を持った人間になっていく。立場が逆転して行っているんですよね。物語の視点も、最初の方は亮輔がメインだったのが、4巻に至っては完全に寧の視点、彼女の物語になってしまっている。亮輔の心の動きはほとんど描かれず、寧が、女神としての側面と、不安定に揺れる少女の側面を描いているわけだ。だから、この作品は、最終的に亮輔と寧の恋愛物語として終結しており、当初の物語のメインだったレックスにまつわるパニック物の側面は後退しているということも可能であろう。それが悪いと言うつもりは全然なくて、バイオハザードものとして社会的、政治的な駆け引きを描きつつ、それが一つの愛に収斂していく過程が、物語的な比重に反映されていく過程が面白いなーと思ったのだった。主人公が物語中で推移していくことにも区切りがあるわけじゃなくて、さりげなく描写が亮輔と寧の間で移り変わっていく手法も興味深かった。ただ4巻で寧の過去、レックスウイルスの原因、そしてその解決などをまとめ上げる必要性からかやや性急な点は見受けられるのが惜しい。もう少し余裕があれば、過去編とか伊藤くんとか、突き詰めればもっと面白くなりそうなものがいろいろあったように思うのになあ。しかし、きちんと決着をつけるべきところはつけて、また過去の因縁にもフォローを入れていると言うところも良かったし、亮輔と寧、二人の感情の推移と、孤高の女神であった寧が、平凡なる人間としての生き方をみつけることが出来たということを、きちんと描いてくれたことを作者には感謝したい。それがさまざまなものから解放された彼らの救いとなるのであろうから。
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