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2009.02.23

『雪蟷螂』読了

51coudyqbal

雪蟷螂』(紅玉いづき/電撃文庫)読了。

人喰いをテーマにしたファンタジー三部作の完結編。今回もすごく面白かった。一面を白く覆い尽くし、肌を凍りつかせる雪を幻視するかのような美しさと厳しさ、そして裏腹の情熱の血潮を感じさせる作品であった。なによりも美しい。これが重要、と言うかすべてと言ってもいい。人々の愛憎を、あるいは厳しい吹雪の中を、雪山を踏みしめる歩みを、描く描写が美しい。なによりも描写をする文章が美しい。そこには耳を澄ませばびょうびょうと吹きすさぶ風の音が聞こえ、人々の生活を息吹が息づいているようにさえ感じられる。

作者は、その美しい描写を、激しくも哀しい愛にまつわる物語を描くことに注ぐ。憎しみともつかぬ激憤、激情。それらに匹敵する暴風の如き愛。作者が描く愛はそのようなものだ。愛するがゆえに憎しみ、憎しみ合いながら愛し合う。冷たくも激しい雪に包まれた舞台に描かれるのは、そんな激しい物語なのだった。

と、見事に絶賛したいところなのだが、あえて苦言を呈す。この物語には3組の恋人たちが出てくるのだが、その内の一組、と言うか過去編の”彼女”の物語が、最もこの物語的のテーマ、愛するがあまり相手を喰らうが如き愛情を体現していると言って良い。彼女の恋の結末は、そのビジュアル的な凄惨さ、そして美しさもあいまって、登場はもっとも短いにも関わらず鮮烈な印象を受ける(雪の中、倒れる彼女のシーンは、あまりにも美しい)。そして、彼女の物語が鮮烈な分、残り二組の物語が、やや印象が薄くなってしまったのが残念と言う他ない。この美しい、あまりに美しい物語の唯一の瑕疵があるとすればそこだ。”彼女の物語”があまりにも美しすぎたがゆえに、他のすべてを覆い尽くしてしまったとは、なんとも因果なものであろう。

しかし、それでもこの作品は美しい。個人的には、完成度と言う点ではやや視点がばらけ過ぎていると思うが、美しいと言うことの前では、それらはすべて些細な問題に過ぎないのだ。ただ、この物語に酔いしれたいと思わせる、これはそんな作品である。

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