« 『ばけらの!』読了 | トップページ | 『空の境界【忘却録音】』を鑑賞してきた »

2009.01.18

『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』読了

51uxiwdf34l

ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』(森田季節/MF文庫J)読了。

あるところで褒められていたので興味が出たので買った。読んだ。驚いた。これはすごいな。かなり褒めたいのだがとても他の人にはオススメ出来ない。出来ないことは無いが、良さが説明しにくい作品だった。

焼いたフルーツってずるい味がする――。そんな冒頭の言葉ですでに僕は胸を打たれる。本当は甘くないのに、人工的に甘くした、嘘のような味がする。そんな言葉だけで、語り手の彼女の心性が垣間見える。彼女は頭がよくていろいろなことに怒っていて潔癖なのだな。

これはロックバンド、ベネズエラ・ビターをめぐる少女と少女と少年の物語。その大枠の中に、少女と少女の、少年と少女の、ある少年の物語が挿入され、物語は拡散していくのだ。

拡散。そう、物語は噂話として語り継がれ、曖昧な言葉の海の中で姿かたちを変えて行き、いずれ真実を知るものさえいなくなるのだとしても、語られることだけで存在を維持されるものもあるのだ。

それが、この物語における”イケニエビト”であり、あるいは”タマシイビト”もまた噂話の、つまり都市伝説と言う名の虚構によって成り立つ存在であり、嘘の中の真実として語り継がれていくのだろう。

うそっぱちの物語の中で、伝聞されること。誰かが存在した証を忘れないこと。それが大切なことだと言うのなら、忘却される運命にある”イケニエビト”はなによりも残酷を強いられている。

これは、存在に無残さを持った”イケニエビト”の、抵抗の物語でもある。抵抗とは戦い。だが、その戦いは流血を伴うものではない。軽やかに逃避し、音楽を奏でるための闘争。革命と恋にまつわる物語なのだ。

ベネズエラ・ビター。甘くもほろ苦い運命よ。その甘さを忘れるな。その苦味を刻み込め。

これはそんな物語だ。

|

« 『ばけらの!』読了 | トップページ | 『空の境界【忘却録音】』を鑑賞してきた »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29313/43785721

この記事へのトラックバック一覧です: 『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』読了:

« 『ばけらの!』読了 | トップページ | 『空の境界【忘却録音】』を鑑賞してきた »