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2009.01.28

『プシュケの涙』読了

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プシュケの涙』(柴村仁/電撃文庫)読了。

これはもう、この構成を考えたこと自体がえらい。この二つの物語を、この順番に描いたことがすごい。物語に圧倒されると言う感覚を久しぶりに覚えた。冷たく悪意に満ちた世界で芽生える恋。その恋が美しいものになるかどうかはだれにも分からない。無私な恋、純粋な恋、一方的な恋、そして哀しい恋。それを作者は淡々と描き、淡々に語る。その突き放した描き方は、あまりにも美しく、哀しい。

この冷たく突き放された文体は、この作者のいままでの作品には無いものだ。否、それは正確ではないか。作者の文体が、これほどまでに冷たく悪意に満ちた哀しい物語と寄り添った物だとは、ぼくは今までまったく気がつかなかったと言うことだ。自分の見る目のなさをただ恥じ入るばかり。思えば『E.a.G』の時点で、作者の文体は、ときに非常に乾いた表現が滲むということに気が付いてしかるべきだった。

前編があるからこそ、後半が活きる。この後半があるからこそ、前編の哀しさ、無常感が際立つ。どこまで作者は残酷を強いるのか、と恨み言を述べたくなるほどだが、本当は作者が残酷なのではない。彼らの世界が残酷なのだ。

この作品はミステリの体裁で描かれている。だが、ミステリとしては、ちょっと慣れた人ならばすぐに真相に気がつくだろう。ぼくは前編は由良が榎戸川を連れて吉野彼方の家に行った時点で犯人は分かった。後半は、”彼女”の正体は、彼女が由良に名乗った時点で大体理解出来ていた。ぼくはミステリで推理をしない(出来ない)人間だが、ある程度ミステリに触れていれば分かるレベルだ。

だが、それはこの作品の価値をいささかも減ずるものではない。むしろこの作品は、いかに真実を見出したとしても、本質的に無意味であると言うことを語っているからだ。犯人を見つけたところで、彼女はすでに戻ってこない。彼女の正体がわかったところで、未来を語れるわけではない。むしろ、それを知ることによって、より深い哀しみを味わうのだ。

ただ、哀しい。その恋が。その想いが。時間とは決して取り戻せない不可逆のものであるということを冷酷に見つめたこの作品は、どこか硝子細工のように脆く、鋭い物語のようであった。

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コメント

もうなんといえばいいか。自分には貴方のような人を指す語彙がありません。あえて言うならすごいとしか…!
僕はプシュケの涙からライトノベルを読み始めたのですが、それまではやはりラノベというものに偏見を持っていました。おたくだの、腐向けだの、作品を見もせずに。
ここにたどり着けて本当によかった。失礼ながらプロフィールを読ませて頂きました。貴方の本の読み方が好きです。感銘を受けました。
もしよければ三部作最終話、セイジャの式日も読んでみてください。
…読み返してみるとなんかすごい気持ち悪いですね…すいません!長文失礼しましたΣ(ノ≧д≦)ノ_

投稿: ナナ | 2011.01.15 03:10

自分の書いていることはわりと偏っているので、あんまり真に受けない方がいいと思いますが…。そんなのでも意味があればいいんですけど。

『セイジャの式日』については…まあそのうちに…。

投稿: 吉兆 | 2011.01.17 23:35

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